なんといってもここのところ贅沢に感じるのは、

外から聞こえてくるうぐいすの鳴き声で目をさますことである。

東京郊外にある我が家では、すぐ近くに畑や竹林や小さな森があり、

おそらくそのどこかにこの春を告げる鳥が棲息していると思われる。




たったひと声でも人の心を魅了してしまう、

あの美しいさえずりのシャワーを浴びて目覚める気分はこの上ない。

まどろみの中で潜在意識まで清められて、笑顔で起床できる。




東京の都心に住むのも魅惑的だけれど、

この極上の目覚ましはなかなか失いがたい喜びである。


(3月のある日に)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬空に向かって突き刺すように
 

立ち並んでいる銀杏の巨木は、勇壮な感じさえして、

通る度に惚れ惚れしていたものだが、

春先になると少し様子が変わってくる。

黒々としていた幹や枝から細くて白っぽい枝が無数に伸びてきて、

木全体の色もいくらかライトになった印象。

絵画館のオレンジ色のライトアップも2月いっぱいで終了したようで、

夜でも分厚い雲があるとわかる春先特有の不安定なお天気の下、

白っぽく出てきた枝々が骨のようにも思え、

巨大な動物の死骸の間を歩いているようだと子供っぽい空想力を働かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


それはさておき、銀杏並木の終わり絵画館の前を左に入り、ほぼ道なりに行くだけで、

20分もすれば千駄ヶ谷駅に着いてしまう。

銀杏並木からすぐの左手に神宮球場があり、時間帯や日によって試合などがある時は、

歓声が外まであふれて、通行人の私まで興奮のおこぼれをもらえる感じがする。

今夜は遅いので静まり返っているが、そこからさらに歩き進むと、

今度は右手にスカイツリーが見えるスポットがある。

初めて発見したときは、神宮外苑のこんな場所からも見えるのかと軽い驚きだった。

小さな宝物を発見した気分である。





それを過ぎると右手に、物議をかもした新国立競技場の建設予定地が見えてくる。

工事用バリケードで囲われているが、今は何もない広大な更地のおかげで

遠くに高層ビル群がそびえ立ってるのが見える。

一番手前にあるニューヨークのエンパイアステートビルを模したNTTドコモのビルが

大きく印象的で、その背後にかたまって見えるのは新宿のビル群だろうか。

どこの高層ビルでもたいていそうだが、

夜は黒っぽく影のようになったビルにいくつかの赤い光が点滅している。

その規則正しい点滅を見ていると、ビルが呼吸しているように私には思われるのだ。

いずれにしろ、新しい国立競技場が建設されてしまえば、この位置からは

このビル群は見えなくなってしまう。今だけの光景には違いない。




さて、千駄ヶ谷の駅がまもなくという時、突然春の匂いを私の鼻がとらえた。

とても香しいとは言えない、しかし強烈な独特の匂いである。

この匂いのもとはヒサカキという植物らしい。

この強い香りは決して不快ではなく、むしろ春を想起させて気分を上げてくれる。

住宅街など庭や緑があるところで匂ってくるのは珍しくはないが、

この場所では意外だった。

今日はだいぶ気温が下がって、冬の日と変わりなく思えるけれども、

こんな都心のどまん中でさえ、春への変化を感じられるのはかえって感慨深い。




すでに目の前は千駄ヶ谷駅。

駅のすぐ上は高速が通っている。

高速道を照らすオレンジ色のライトの色も心なしかぼやけて見えた。

そして、高速の上をサーッと車が通過する音でさえもやわらかく響き渡る気がするのである。

(2016年3月中旬のある日に)




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のびやかに青空を渡るかもめを思わず目で追ってしまう。

 

かつての休日の喧騒が嘘のように引いた、ことに平日のお台場は、

 

今日のように晴れ渡った日には、自然と足が向いてしまう場所になった。

 

 

 

 

不安定なお天気が長く続いた後の、ようやくの一週間ぶりの、光にあふれた日。

 

昼下がりのティータイムを楽しむため、デックス東京ビーチにやってきた。

 

昔ここができたての頃は、人であふれていたことを思い出す。

 

今はお台場の商業施設はずいぶんと増えて、この場所は観光スポットとしては古株と言えようか。

 

今でも多くの観光客が訪れているに違いないが、

 

私にとってはありがたいことに、平日は人がまばらで、

 

本当に落ち着いていられる場所となった。

 

 

 

 

晴れた日は何より景観がいい。レインボーブリッジと東京タワー、

 

高層ビル群を目の前に、潮風にあたりながら空と海の青さを感じて歩くと

 

自然と開放的な気分になる。

 

ところどころ、外のスピーカーから流れるボサノバやハワイアンが

 

より気分をなごませてくれる。

 

 

 

 

外気にさらされる席ではまだ少し肌寒く思ったので、

 

屋内のカフェの一つに入り、窓辺の席で本を読みながら時間をつぶす。

 

 

 

 

気がつくと、いつの間にか夕刻が忍び寄っていたらしい。

 

目の前に見えるビルのところどころが、

 

まるで金箔を貼り付けたように輝いている。

 

夕方の自然光と人工物のコラボのとも言えるこのとびっきりのゴールドは、

 

都市ならでこそ映えるのかもしれない。

 

 

 

 

しかし、この日のゴージャスな色の収穫はこれだけではなかった。

 

ビルの向こうに沈みゆく太陽、それを眺めながらはっと気がついた。

 

夕日の周りに大きく虹色のような半円ができているのだ。

 

(これは後でニュースで知ったが、水蒸気の多い春に多く見られる光環という現象らしい)

 

太陽をまじまじと見ていた私だからたぶん気がついたのだ。

 

周囲の人で気がついている人は多くなかったに違いない。

 

思いがけなく神々しい風景を目にしたことで、自然と顔はほころび、足取りはかろやかになる。

 

 

 

 

そしてさらに、そんな自然と都市建造物の共演で醸しだされる、

 

フィナーレの色を見つけて、また心の中でひとり歓声をあげたのだった。

 

レインボーブリッジがなんと美しい桜色に染まっていたのだ。

 

晴天の日とはいえ、冬のキリリと澄み渡った大気とは違う、

 

よりやわらかな空気がこの季節にふさわしい色を作り出したのだ。

 

そういえば、太陽が沈んで影になりゆくビルの色もほんのり赤紫がかっている。

 

 

 

 

まだ本物の桜の花はかたい蕾のままだけれど、

 

もうまもなくやってくる桜の季節を告げるような、

 

自然の粋な演出と言えなくはないか。

 

勝手にそう決めこみ、ひとり盛り上がった早春の宵であった。クラッカー

 

(2016年3月中旬のある日)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸一丁目。

東京の地理に詳しくなければ、

この住所を聞くと、ちょっと想像力をかきたてられるかもしれない。

忙しすぎる日常の気分転換にふと訪れてみたくなる、

なんだか魅力的な響きがある。




実際はここには、小笠原諸島などに船が出る、竹芝桟橋がある。

今週の3月8日は突然1日だけ陽春さながらの日になった。

暖かな気温に気持ちも自然と浮き立って、

春の埠頭が見たいなあと突然思い立つ。




見上げると、春特有のふんわりとした柔らかな空の色。

電車に乗り、浜松町に近づく頃窓越しに外を見ると、

ビルの上のほうがかなりもやっていた。

前日は、東京でも珍しく霧が発生して、その名残が

見られていたのだ。




浜松町で下車し、

北口を出て右手をほぼ真っすぐに5分ほど進むと、

竹芝桟橋はもうすぐそこだ。

ターミナルの前には、実際に船で使われていたであろう大きな

マストが立てられているので、目印になる。

その巨大なマストを仰ぎ見ながら、

階段を登って、見晴らしのいい2階の展望広場に登ると

おだやかな春の海の景色が広がっていた。




水面はぼんやりと白い帯状のもやが這っているのだが、

ところどころキラキラと太陽の光が踊っていた。

その向こうにはレインボーブリッジが

かろうじてか細いラインをとどめていた。

その時、ちょうどどこかの島へ向けて船が出港したらしい。

ポーッとやわらかい汽笛音が春霞の海に響いた。

その音はそのまま心の中に染み通っていく……。




お天気がいいので、ここのベンチでランチをしたら

さぞかし気持ちがいいだろう。


既に近くのオフィスの会社員やOLらしい人たちが

思い思いにベンチでお昼を食べていたり、ひなたぼっこを楽しんでいた。




いったん下に降りて一階のターミナルに入る。

一角にある愛らんどカフェで何か食べ物を探すためだ。

カフェの前のメニュー板を見ながら、ランチを決める。

料理は全て島の食材を使っているようで、どれもおいしそうだ。

迷った挙句、屋外でも手軽に食べられそうな、

ムロアジバーガーを買った。

自販機でドリンクを買って、また上の展望広場に戻り、

海を真正面してベンチに腰掛け、バーガーにかぶりつく。




パンに挟まっているのは、ムロアジのメンチカツとチーズと

トマトとレタス。けっこうなボリュームだ。

驚きなのは、メンチカツがマグロと言われてもわからないほど、

青魚特有の臭みはまったくない。食材が新鮮な証拠だ。

明日葉か何かを使った、少し酸味のある緑のソースが

全体の味をうまくまとめていて、予想以上においしかった。

これで500円。ここでしか食べられないのだから、

けっこうなお値打ちバーガーだと思った。





味覚だけでなく、五感でフルに味わえた贅沢なランチタイム。


海岸一丁目はイメージを裏切らないリフレッシュできる場所。

また違う時間帯、季節に来よう。




I LOVE TOKYO























































 

 

東京に街路樹は数あれど、ここの銀杏並木は別格だ。

秋に鮮やかだった黄色の衣はすっかり消え失せ、

木の裸体とも言うべき、太い幹や枝を冬の外気にさらしている。



しかし、この堂々たる姿がまた惚れ惚れする。

巨大な街路樹なのに、てっぺんに至るまで美しく整えられ

天を突き刺すその姿はまるで、絵画館の前に整列している

兵士のような勇ましさを感じさせる。



夜、ここを通りかかると、

絵画館はライトアップされて、オレンジ色に浮かび上がる。

冬の乾燥した大気は

視界をとても鮮明にするので、なお美しい。



爪の先よりも細い三日月が低い位置にあった。

その繊細な三日月が、並木の枝の間を真横に移動するのを

楽しみながら歩いた。

子供じみてはいるけれど、

私はそんなふうに風景と遊ぶのが好きだ。



そんな銀杏並木からほど近い、青山一丁目のとあるビルの一室で

小さなクラスを企画している幸せ。

運動不足解消のために青山一丁目から千駄ヶ谷間を歩く私の

銀杏並木は心躍る散歩道です。

(2016年2月のある日)



I LOVE TOKYO