この時期になると、麻の布地をよく見かけます。
衣替えした自分のタンスの中にも、ショーウィンドーの中にも。
思わず触りたくなるあの感覚が、夏の到来を予感させます。
そしてその感覚とともに思い出すのが、太宰治の「晩年」の中にある、麻の着物に関する一節です。
「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。」
何気なく存在する対象から想起される思いが、人を少し先へ、少しだけ先へと導くのかもしれません。
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太宰治 「晩年
」