***
春の野には様々な花があちらこちらに咲いていた。
たんぽぽ、ほとけのざ、れんげ、なずな、シロツメクサ―――
それぞれの草花が丘を彩っていた。
家盛がよもぎを見つけ、それを取る為に少しだけ2人と距離をとる。
沙羅と巳船は丘の上に腰を降ろしたまま、家盛のよもぎとりを見るともなしに眺めていた。
巳船「春はいいな。花や葉が、世に彩りを添えている」
沙羅「そうですね。色んな花が咲いていて、とてもきれい」
と、
沙羅「(春の花の花ことばは・・・)」
そんなことを考える。
たんぽぽ・・・真心の愛
ほとけのざ・・・調和
れんげ・・・心が和らぐ
なずな・・・すべてを捧げる
シロツメクサ・・・復讐―――
巳船「沙羅?どうした?」
沙羅「いえ・・・何でもありません」
穏やかな春の野。
生命に満ち溢れた場所。
シロツメクサは小さな毬のような、白い花をつけていた。
2人は家盛に視線を移し、その様子を眺める。
家盛はプツリプツリとよもぎの葉を摘み取っている。
ひとつ摘んでは風が吹き
ふたつ摘んでは雲が飛び
みっつ摘んでは香りが漂う
そのような光景だった。
巳船「・・・今頃は」
沙羅「はい」
巳船「清盛が後白河と話している頃か」
沙羅「・・・・・・。」
巳船「忠明は無事だろうか」
沙羅「・・・・・・。」
ぴちぴちと、鳥のさえずりが聞こえる。
巳船「心、ここにあらずか」
沙羅「いえ」
沙羅「私も同じことを思っていました」
沙羅の肩が次第にあがり、息が僅かに乱れていく。
沙羅「本当は、私も行った方が良かったんだと思います。きっと、色んなことが分かるから」
沙羅「でも」
沙羅「怖くて・・・勇気が出せませんでした」
巳船「別に悪いことではない。それもまた沙羅の決めたことだ」
シロツメクサが風に揺れている。
その毬のような花の形に比べ、なんとも細い茎。
ともすれば首がぽろりと落ちてしまいそうにも見えるが、それでもすっくりと花を生やして咲いている。
巳船「行くのを良しとするのか、行かないのを良しとするのか、それはお前の考え次第」
巳船「行けば沙羅の言うように様々なことが分かるだろう。けれども危険も同じだけ及ぶ」
巳船「清盛に任せ、安全なところで待つことが良いのはたしかだ」
沙羅「でも、結局私は皆さんに甘えてしまっていて」
巳船「甘えるのは悪いことか?」
沙羅「・・・自分のことなのに、・・・皆さんに迷惑をかけているのが申し訳ないです」
巳船「私は迷惑などと思ってはいない。家盛もそうだろう」
巳船が視線を送れば、それに気づかない家盛がよもぎを摘んでいる。
プツリ、プツリ、プツリ
よもぎの新芽が家盛の手によって摘み取られて行く。
巳船「清盛も、そうだろうな」
沙羅「・・・・・・。」
沙羅「私は・・・清盛さんのことを・・・」
巳船「・・・・・・。」
沙羅「利用しているような気がしてならないんです」
巳船「・・・そうか」
沙羅「帰りを待つか、と聞かれました。これから先もずっと、と」
沙羅「私はそれに答えられないままです。自分の気持ちが分からない」
沙羅「これまでずっと、“あの人”から逃げたくてたまらなかった。怖いこともたくさんあった。ここに来てからも不安がないわけじゃないです。そんな時に、そう言われて・・・」
沙羅「清盛さんのお屋敷は安全だから・・・。自分自身が清盛さんの好意を利用しているんじゃないかと思ってしまうんです」
巳船「そうか」
巳船「自分の気持ちが分からないのだな」
沙羅「・・・はい。情けないです」
巳船「自分自身のことを全て分かっている者など多くはない。そして人の心の内が理屈ではかれないのも道理」
巳船「自分自身の心の内に問いかけ、答えが出ずともいずれ知るときが来るだろう」
巳船「人は常に前を進む生き物だからな」
巳船「今の状況は不変のものではない。変化があってなお、心に宿るものがあれば、それがお前の答えだろう」
沙羅「(・・・変化?)」
巳船の言った言葉がなぜか気にかかった。
沙羅がそのことについて口を開こうとすると、家盛が2人を呼んだ。
「沙羅さん、巳船さん。兄貴が戻ってきたようだ!」
見れば向こうの方から馬が駆けて来るのが見える。
巳船「ああ、今行く。行こう、沙羅」
沙羅「・・・はい」
沙羅「(変化・・・?)」
沙羅は巳船に尋ねることができなかった。
そしてそのことは沙羅の頭から抜け落ち、その後も聞くことはなかった。
もし今この地で聞くことが出来れば、その後の未来もまた違うものになっていたかもしれない。
それはこの時代に許されている事であり、清盛自身が周囲から求められている事。
沙羅が清盛を愛するとすれば、決して望まないこと・・・―――
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春の野には様々な花があちらこちらに咲いていた。
たんぽぽ、ほとけのざ、れんげ、なずな、シロツメクサ―――
それぞれの草花が丘を彩っていた。
家盛がよもぎを見つけ、それを取る為に少しだけ2人と距離をとる。
沙羅と巳船は丘の上に腰を降ろしたまま、家盛のよもぎとりを見るともなしに眺めていた。
巳船「春はいいな。花や葉が、世に彩りを添えている」
沙羅「そうですね。色んな花が咲いていて、とてもきれい」
と、
沙羅「(春の花の花ことばは・・・)」
そんなことを考える。
たんぽぽ・・・真心の愛
ほとけのざ・・・調和
れんげ・・・心が和らぐ
なずな・・・すべてを捧げる
シロツメクサ・・・復讐―――
巳船「沙羅?どうした?」
沙羅「いえ・・・何でもありません」
穏やかな春の野。
生命に満ち溢れた場所。
シロツメクサは小さな毬のような、白い花をつけていた。
2人は家盛に視線を移し、その様子を眺める。
家盛はプツリプツリとよもぎの葉を摘み取っている。
ひとつ摘んでは風が吹き
ふたつ摘んでは雲が飛び
みっつ摘んでは香りが漂う
そのような光景だった。
巳船「・・・今頃は」
沙羅「はい」
巳船「清盛が後白河と話している頃か」
沙羅「・・・・・・。」
巳船「忠明は無事だろうか」
沙羅「・・・・・・。」
ぴちぴちと、鳥のさえずりが聞こえる。
巳船「心、ここにあらずか」
沙羅「いえ」
沙羅「私も同じことを思っていました」
沙羅の肩が次第にあがり、息が僅かに乱れていく。
沙羅「本当は、私も行った方が良かったんだと思います。きっと、色んなことが分かるから」
沙羅「でも」
沙羅「怖くて・・・勇気が出せませんでした」
巳船「別に悪いことではない。それもまた沙羅の決めたことだ」
シロツメクサが風に揺れている。
その毬のような花の形に比べ、なんとも細い茎。
ともすれば首がぽろりと落ちてしまいそうにも見えるが、それでもすっくりと花を生やして咲いている。
巳船「行くのを良しとするのか、行かないのを良しとするのか、それはお前の考え次第」
巳船「行けば沙羅の言うように様々なことが分かるだろう。けれども危険も同じだけ及ぶ」
巳船「清盛に任せ、安全なところで待つことが良いのはたしかだ」
沙羅「でも、結局私は皆さんに甘えてしまっていて」
巳船「甘えるのは悪いことか?」
沙羅「・・・自分のことなのに、・・・皆さんに迷惑をかけているのが申し訳ないです」
巳船「私は迷惑などと思ってはいない。家盛もそうだろう」
巳船が視線を送れば、それに気づかない家盛がよもぎを摘んでいる。
プツリ、プツリ、プツリ
よもぎの新芽が家盛の手によって摘み取られて行く。
巳船「清盛も、そうだろうな」
沙羅「・・・・・・。」
沙羅「私は・・・清盛さんのことを・・・」
巳船「・・・・・・。」
沙羅「利用しているような気がしてならないんです」
巳船「・・・そうか」
沙羅「帰りを待つか、と聞かれました。これから先もずっと、と」
沙羅「私はそれに答えられないままです。自分の気持ちが分からない」
沙羅「これまでずっと、“あの人”から逃げたくてたまらなかった。怖いこともたくさんあった。ここに来てからも不安がないわけじゃないです。そんな時に、そう言われて・・・」
沙羅「清盛さんのお屋敷は安全だから・・・。自分自身が清盛さんの好意を利用しているんじゃないかと思ってしまうんです」
巳船「そうか」
巳船「自分の気持ちが分からないのだな」
沙羅「・・・はい。情けないです」
巳船「自分自身のことを全て分かっている者など多くはない。そして人の心の内が理屈ではかれないのも道理」
巳船「自分自身の心の内に問いかけ、答えが出ずともいずれ知るときが来るだろう」
巳船「人は常に前を進む生き物だからな」
巳船「今の状況は不変のものではない。変化があってなお、心に宿るものがあれば、それがお前の答えだろう」
沙羅「(・・・変化?)」
巳船の言った言葉がなぜか気にかかった。
沙羅がそのことについて口を開こうとすると、家盛が2人を呼んだ。
「沙羅さん、巳船さん。兄貴が戻ってきたようだ!」
見れば向こうの方から馬が駆けて来るのが見える。
巳船「ああ、今行く。行こう、沙羅」
沙羅「・・・はい」
沙羅「(変化・・・?)」
沙羅は巳船に尋ねることができなかった。
そしてそのことは沙羅の頭から抜け落ち、その後も聞くことはなかった。
もし今この地で聞くことが出来れば、その後の未来もまた違うものになっていたかもしれない。
それはこの時代に許されている事であり、清盛自身が周囲から求められている事。
沙羅が清盛を愛するとすれば、決して望まないこと・・・―――
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