***
清盛が屋敷に戻り、すぐさま沙羅が呼ばれた。
清盛の部屋には2人きり。
清盛「良い子にしていたか」
いつものように笑いかけながら、清盛は軽く沙羅の頭を撫でた。
沙羅「はい・・・」
先ほどまで巳船と清盛について話していた為、沙羅はほんのわずかに驚いた顔をして、そして頬を赤らめた。
清盛「赤いな」
からかうように言われれば、
沙羅「子ども扱いされたからですよ」
咄嗟に口を尖らせて言う。
沙羅は顔を伏せて頬をごしごしとさすった。
清盛は沙羅の様子を眺め、口元の笑みを深めた。
他の誰にも送ることのない、優しい瞳で沙羅を見つめる。
その視線に沙羅は気づくことは無い。
沙羅が再び顔を上げたところで清盛は本題を切りだした。
清盛「―――忠明が見つかった」
沙羅「忠明さんが・・・無事でしたか?」
沙羅には嬉しいとも悲しいとも言えない表情が宿る。
自分を襲った男達と知り合いの様子だった忠明・・・。
真意を清盛の口から聞くことになった。
清盛「義朝が見つけた。経緯はこうだ」
忠明は別の町で乞食に身をやつして隠れており、それを見つけた義朝に全てを話した。
そして義朝から後白河天皇、後白河天皇の中宮である忻子中宮、信西、清盛へと伝えられたのだった。
忠明はさる男から、沙羅を殺せと密命を受けた。
けれどもそれを為すことをためらい、同じく密命を受けていた男達から逃がそうとしたところ、正体不明の男が表れ、男達を始末した後に自分もまた襲われたことを白状した。
正体不明の男は茨木であったが、それを知る者はここにはいない。
そして沙羅を殺すことを命じた者は、高松殿で権力を持つ信西であったことを話した。
信西は後白河天皇の寵姫とされていた沙羅の命を狙った罪により、しばらくの間暇を出されることとなる。
沙羅の命が脅かされることがなくなり後白河は沙羅が高松殿に戻ることを望んだが、それまで黙っていた忻子中宮が嫋やかにそれを咎め、良しとしなかった。
中宮のその瞳には、恨み、嫉妬、憎悪の念がうずまいている。
話しはそこで終わり、清盛は高松殿を後にしたが、
清盛「信西が退いたとは言え、別の間者がやってくる―――」
そう、清盛は沙羅に話したのだった。
***
―――別の間者。
そう言われた瞬間、沙羅の表情が変わった。
眼を見開き、唇を一文字に結ぶ。
ぽつぽつと、額に汗が噴き出してくる。
それと同時に肩が上下し始め、呼吸が少しずつ荒くなる。
蘇るは様々なこと。
これまでに受けた恐怖や痛みがすぐに首をもたげて来る。
沙羅「わ、わ、私は・・・」
そこまで言ったところで、沙羅は次の言葉を口にすることが出来なかった。
清盛によって抱き寄せられ、顔を胸にうずめていたからだった。
ふっ、と、清盛の香りが濃くなる。
清盛「俺がいるんだ。もう誰にも手出しはさせねえよ」
身体を通して清盛の言葉が伝わって来る。
低い声、温かい身体、何度も嗅いだ清盛の香り。
沙羅は無意識に清盛の着物を掴んでいた。
清盛「俺がお前の傍にいてやるから」
沙羅はわずかに目をみはった。
唇がわななき、それを止めようと歯で上唇を噛む。
肩がぶるぶると震えた。
清盛「沙羅」
名前を呼び、顔を覗き込むと沙羅の瞳から大粒の涙が落ちていった。
沙羅は両手で目だけを覆った。
唇を噛みながら、大きく深呼吸をする。
清盛は黙って再び沙羅を抱きしめた。
背中をさすると、沙羅の髪がさらりと手に触れる。
沙羅の髪は寺で会ったときよりも伸びていた。
清盛「・・・・・・。」
沙羅は腕の中に収まっている
清盛「(小せえ身体。また痩せたか・・・。
俺のいないところでいつも傷ばっか作って・・・)」
清盛は視線を天井に向けながら言った。
清盛「お前さえ良ければここにいろ」
清盛「お前ひとりの面倒くらい、俺が見てやるよ」
清盛「変わらず、もとの時代に戻る手立てを探せばいい」
清盛「そんで、誰も娶ってくれなかったら・・・俺がお前のそばにいてやってもいい」
はっきりと伝えられた清盛の想い。
清盛の鼓動が強く、沙羅の耳に響いた。
清盛が言った言葉は平家の棟梁としては決してのぞましいものではない。
沙羅は肺の病にかかっているのだから。
今は咳のみであったが今後進行するとも限らない。
この平の屋敷で肺の病の事実を知るのは清盛のみ。
本来の清盛の立場からすれば、沙羅をすぐにでも屋敷から追い出すのが棟梁としての務めだった。
しかし清盛はそうはしなかった。
抱き寄せて、愛の言葉を囁く。
どれほどそうしていただろう。
沙羅「清盛さん・・・」
消え入りそうな声。
清盛が無言で沙羅を見ると、沙羅は両手で目を覆ったまま呟いた。
沙羅「ごめんなさい・・・ありがとう」
清盛の言葉を受けるとも、受けないとも捉えられるような言葉。
沙羅の今の心内がそのまま言葉に出ていたのだった。
清盛が再び沙羅を抱き寄せて眼を伏せると、沙羅の首筋が目に入り、着物の奥、襟元に印が見えた。
阿闍梨の印と、
―――後白河天皇の印
沙羅「(今、ここに雅仁はいないのに・・・)」
そこに後白河がいるような気がしてならない。
清盛は無意識に後白河の印を睨んでいた。
***
そのころ平家の家臣の数人が、腰に刀をさして馬の納屋で話し込んでいた。
男1「見たか?あの娘、やはり・・・」
男2「たしかに間違いない。後白河天皇の寵姫であった娘だ」
男1「棟梁は何を考えているのか・・・」
男2「捨てられたとはいえ、天皇の手つきの娘を手篭めにするなど、謀反行為とされてしまう」
人の口に戸はたてられない。
男1「いや、妾でなく本妻とするかもしれん。近頃はよく似た女を夜に召していたようだからな」
男2「それこそ問題だろう。棟梁が妻をめとれば後白河天皇にも当然話が行く。あの娘だと分かれば・・・」
家盛「何を集まっている」
男1「あっ、家盛さま」
男2「いえ、これから外へ出るところです。失礼をば・・・」
家臣らはそそくさと外へ向かって行った。
家盛「(皆の様子がおかしい。兄貴への信頼が揺らいで・・・いや、不安を抱いているのか)」
家盛「(平にとって沙羅さんがここにいることは良くないことなのだろう・・・)」
家盛は静かに目を伏せ、ため息をついた。
家盛「(兄貴、早く手を打たないとおかしなことになるぞ)」
***
まとめて時間が取れたので久々に二次書きました。
久々すぎて色々忘れてました(笑)
清盛編はまた別の終わり方になりまっせ。
幸せの形はそれぞれだけど、自分や好きな人が生きているだけで幸せなんだよね。
今回書いていて楽しかったところ・・・
それはラストの家盛さんと家臣の会話!!!!(ラブシーン?ではなく!!!!)
ここ、去年の今頃に書いていた部分だったので、やっと陽の目を浴びた感じでござんす。
さて、今晩はブロ友さんたちのブログを読みまくるぞーい(***^v^***)
清盛が屋敷に戻り、すぐさま沙羅が呼ばれた。
清盛の部屋には2人きり。
清盛「良い子にしていたか」
いつものように笑いかけながら、清盛は軽く沙羅の頭を撫でた。
沙羅「はい・・・」
先ほどまで巳船と清盛について話していた為、沙羅はほんのわずかに驚いた顔をして、そして頬を赤らめた。
清盛「赤いな」
からかうように言われれば、
沙羅「子ども扱いされたからですよ」
咄嗟に口を尖らせて言う。
沙羅は顔を伏せて頬をごしごしとさすった。
清盛は沙羅の様子を眺め、口元の笑みを深めた。
他の誰にも送ることのない、優しい瞳で沙羅を見つめる。
その視線に沙羅は気づくことは無い。
沙羅が再び顔を上げたところで清盛は本題を切りだした。
清盛「―――忠明が見つかった」
沙羅「忠明さんが・・・無事でしたか?」
沙羅には嬉しいとも悲しいとも言えない表情が宿る。
自分を襲った男達と知り合いの様子だった忠明・・・。
真意を清盛の口から聞くことになった。
清盛「義朝が見つけた。経緯はこうだ」
忠明は別の町で乞食に身をやつして隠れており、それを見つけた義朝に全てを話した。
そして義朝から後白河天皇、後白河天皇の中宮である忻子中宮、信西、清盛へと伝えられたのだった。
忠明はさる男から、沙羅を殺せと密命を受けた。
けれどもそれを為すことをためらい、同じく密命を受けていた男達から逃がそうとしたところ、正体不明の男が表れ、男達を始末した後に自分もまた襲われたことを白状した。
正体不明の男は茨木であったが、それを知る者はここにはいない。
そして沙羅を殺すことを命じた者は、高松殿で権力を持つ信西であったことを話した。
信西は後白河天皇の寵姫とされていた沙羅の命を狙った罪により、しばらくの間暇を出されることとなる。
沙羅の命が脅かされることがなくなり後白河は沙羅が高松殿に戻ることを望んだが、それまで黙っていた忻子中宮が嫋やかにそれを咎め、良しとしなかった。
中宮のその瞳には、恨み、嫉妬、憎悪の念がうずまいている。
話しはそこで終わり、清盛は高松殿を後にしたが、
清盛「信西が退いたとは言え、別の間者がやってくる―――」
そう、清盛は沙羅に話したのだった。
***
―――別の間者。
そう言われた瞬間、沙羅の表情が変わった。
眼を見開き、唇を一文字に結ぶ。
ぽつぽつと、額に汗が噴き出してくる。
それと同時に肩が上下し始め、呼吸が少しずつ荒くなる。
蘇るは様々なこと。
これまでに受けた恐怖や痛みがすぐに首をもたげて来る。
沙羅「わ、わ、私は・・・」
そこまで言ったところで、沙羅は次の言葉を口にすることが出来なかった。
清盛によって抱き寄せられ、顔を胸にうずめていたからだった。
ふっ、と、清盛の香りが濃くなる。
清盛「俺がいるんだ。もう誰にも手出しはさせねえよ」
身体を通して清盛の言葉が伝わって来る。
低い声、温かい身体、何度も嗅いだ清盛の香り。
沙羅は無意識に清盛の着物を掴んでいた。
清盛「俺がお前の傍にいてやるから」
沙羅はわずかに目をみはった。
唇がわななき、それを止めようと歯で上唇を噛む。
肩がぶるぶると震えた。
清盛「沙羅」
名前を呼び、顔を覗き込むと沙羅の瞳から大粒の涙が落ちていった。
沙羅は両手で目だけを覆った。
唇を噛みながら、大きく深呼吸をする。
清盛は黙って再び沙羅を抱きしめた。
背中をさすると、沙羅の髪がさらりと手に触れる。
沙羅の髪は寺で会ったときよりも伸びていた。
清盛「・・・・・・。」
沙羅は腕の中に収まっている
清盛「(小せえ身体。また痩せたか・・・。
俺のいないところでいつも傷ばっか作って・・・)」
清盛は視線を天井に向けながら言った。
清盛「お前さえ良ければここにいろ」
清盛「お前ひとりの面倒くらい、俺が見てやるよ」
清盛「変わらず、もとの時代に戻る手立てを探せばいい」
清盛「そんで、誰も娶ってくれなかったら・・・俺がお前のそばにいてやってもいい」
はっきりと伝えられた清盛の想い。
清盛の鼓動が強く、沙羅の耳に響いた。
清盛が言った言葉は平家の棟梁としては決してのぞましいものではない。
沙羅は肺の病にかかっているのだから。
今は咳のみであったが今後進行するとも限らない。
この平の屋敷で肺の病の事実を知るのは清盛のみ。
本来の清盛の立場からすれば、沙羅をすぐにでも屋敷から追い出すのが棟梁としての務めだった。
しかし清盛はそうはしなかった。
抱き寄せて、愛の言葉を囁く。
どれほどそうしていただろう。
沙羅「清盛さん・・・」
消え入りそうな声。
清盛が無言で沙羅を見ると、沙羅は両手で目を覆ったまま呟いた。
沙羅「ごめんなさい・・・ありがとう」
清盛の言葉を受けるとも、受けないとも捉えられるような言葉。
沙羅の今の心内がそのまま言葉に出ていたのだった。
清盛が再び沙羅を抱き寄せて眼を伏せると、沙羅の首筋が目に入り、着物の奥、襟元に印が見えた。
阿闍梨の印と、
―――後白河天皇の印
沙羅「(今、ここに雅仁はいないのに・・・)」
そこに後白河がいるような気がしてならない。
清盛は無意識に後白河の印を睨んでいた。
***
そのころ平家の家臣の数人が、腰に刀をさして馬の納屋で話し込んでいた。
男1「見たか?あの娘、やはり・・・」
男2「たしかに間違いない。後白河天皇の寵姫であった娘だ」
男1「棟梁は何を考えているのか・・・」
男2「捨てられたとはいえ、天皇の手つきの娘を手篭めにするなど、謀反行為とされてしまう」
人の口に戸はたてられない。
男1「いや、妾でなく本妻とするかもしれん。近頃はよく似た女を夜に召していたようだからな」
男2「それこそ問題だろう。棟梁が妻をめとれば後白河天皇にも当然話が行く。あの娘だと分かれば・・・」
家盛「何を集まっている」
男1「あっ、家盛さま」
男2「いえ、これから外へ出るところです。失礼をば・・・」
家臣らはそそくさと外へ向かって行った。
家盛「(皆の様子がおかしい。兄貴への信頼が揺らいで・・・いや、不安を抱いているのか)」
家盛「(平にとって沙羅さんがここにいることは良くないことなのだろう・・・)」
家盛は静かに目を伏せ、ため息をついた。
家盛「(兄貴、早く手を打たないとおかしなことになるぞ)」
***
まとめて時間が取れたので久々に二次書きました。
久々すぎて色々忘れてました(笑)
清盛編はまた別の終わり方になりまっせ。
幸せの形はそれぞれだけど、自分や好きな人が生きているだけで幸せなんだよね。
今回書いていて楽しかったところ・・・
それはラストの家盛さんと家臣の会話!!!!(ラブシーン?ではなく!!!!)
ここ、去年の今頃に書いていた部分だったので、やっと陽の目を浴びた感じでござんす。
さて、今晩はブロ友さんたちのブログを読みまくるぞーい(***^v^***)