孤高の翼 『スカイクロラ』シリーズ 森博嗣 | 原型師は燃えているか?

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劇場で観た押井守監督作2008年の映画『スカイクロラ』があまりに良くて続けて二度観たので(新宿ミラノは入れ替えではなかった)、原作も気になり読んでみた。森博嗣さんの名前はこれで初めて知った。シリーズで5冊でているが映画は最終巻の5巻『スカイ・クロラ』と1巻『ナ・バ・テア』の内容なのだという(後に番外編追加で全6巻)。試しに一冊読んでみると。。残りもすぐに全部買って繰り返し読んだ(笑)。これはもの凄い小説だ。


私は一般的な人より多くの航空戦記や航空小説を読んでいると思うが、スカイクロラシリーズはどれにも似ていない独自の航空描写に溢れている。まずこれに驚いた。飛行描写ではない。空中戦闘描写。これが説明不可能な官能なのだ。月並みな表現だと浮遊感とスピード感、と言ったら良いのだろうか?心を空の戦いに囚われた人。空で美しく戦い美しく死んでいくのを願う人。おそらく何割かの戦闘機パイロットが持っているであろう美学と感じた。大事なのは命ではなく美しく戦う瞬間なのだ。壮絶な美。孤高の死。圧巻としか言いようがない。現代のマジョリティー的倫理観は「命より尊いものはない」だし、多くの創作物語はそれに従っているように思われる。が、この物語は「命よりも尊いものがある(のではないか?)」という事を描いている。これを受け入れられる人は気に入る小説だと思う。


こんな凄い小説を書く作者はどんな人なのだろうか?と気になった。1996年の小説デビュー以来、全て「ビジネスとして」小説を書いてきたのだそうだ。例外はこのスカイクロラシリーズだけ。このシリーズのみ「書きたくて書いた」唯一のシリーズなのだという。このシリーズを読んで以来、私はすっかり森博嗣さんのファンになってしまった。買ったのは小説よりエッセイの方が多く、昨年末まで続いていたブログ『店主の雑駁』も始めから楽しみに読んでいた。


スカイクロラシリーズはもちろん6冊全部持っているが、すぐに出せたのがこの三冊だけだった。。カバーは映画公開当時だけのイラスト版。スカイ・イクリプスはDVD特典のイラストカバーに換えている。

全巻原作を読んでみると、映画と原作では筋立てに違いがあるのが分かる。しかし、ほぼ同じ内容と言っていい。矛盾していることを書いているようだが事実だ。映画と原作は一見違う話のようだが『スカイ・イクリプス』まで読むと「内容」はほぼ同じという、これもなかなか稀有な例ではないか?孤高に生きる人間が選んだ道(の方向性)が映画と原作では一致している。