フューリーを観る | 原型師は燃えているか?

原型師は燃えているか?

見せてもらおうか そのオヤジの奮戦とやらを

惜しい!
惜しい作品だった。
最後の戦闘を違う形で描けば95点だったのに。。。。

TBSラジオで映画評論をしている宇多丸さん風に言うと、正確にM4系を使って大戦米軍戦車隊を描いた時点で5億点!(笑)
実は、大戦中の米戦車部隊を正確な車輛を使って描いた作品を、私は1本しか知らない。
戦後の劇映画ではこれ以外存在しないかも知れない。
51年公開の『肉弾戦車隊 原題:THE TANKS ARE COMING』だ。
(『レマゲン鉄橋』は機甲歩兵の映画なので)
この映画、相当良く出来ている為、どうしても比較せざるを得ない。
これと2本目である『FURY』を足して2で割れば、ベストな米戦車隊映画になるだろう。

『肉弾。。』は昨年、国内初ソフト化でDVDが出たので(それまでは字幕なしビデオで何回も観ていたのだが)、M4が好きな方、詳しい方は是非一度観て欲しい。
ただ、米戦車隊に詳しくない人には、あまり価値のない作品かも知れないw。
M4各型の違い、運用面が判る方になら、きっと価値が判って頂けると思う。

さて『フューリー』。
戦争で精神がすさんだ感、満点。
粗野で下品に「なってしまった」人々が、上手く痛々しく描かれている。
主題はタイトル通り戦争への怒り、少年の成長、そして鎮魂と見た。
実際に2機甲師に存在したFURY号という名前から(記録写真が存在する)、ここまで想像を膨らませたのは立派。

戦車隊の考証面では、ほぼ満点。
M4独特の装填手の所作がちゃんと出来ている。
(運用面では素晴らしい描写も多かった「ガルパン」よりずっと正確)
スロートマイクもちゃんと使っているし。
新兵のスロートマイクは支給されたままの金属クリップ付きで、それ以外のベテラン兵はクリップを外していた。
クリップは喉に密着させる為に付けてあるのだが、喉仏が締め付けられて異物感が高い為、結構外されていたらしい(同型を使う米陸軍航空隊装備解説本に書いてあった)。
実物箱入り新品を持っていたから良く解る。
勿論、開けてすぐクリップは外した(笑)。
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追記
スロートマイクの件は間違っています。
劇中では全員クリップ付でマイクを使用していました。
クリップのテンションが強過ぎ、喉から浮いていましたが(笑)。
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戦車隊の脅威が、ほぼ全て網羅されていたのも良かった。
PF、PAK、対戦車地雷と猛獣戦車。
猛獣と出会い、すぐにWP(煙幕黄燐弾)を撃ちまくり態勢を立て直すのも良い。
と、ここまでは現役戦車大隊を使って撮影された『肉弾。。』も同じく描かれていたりする。
他の映画はあまり参考にしていないとの監督コメントがパンフに載っていたが、『肉弾。。』以外にも『THE BEAST(レッドアフガン)』『戦争のはらわた』は間違いなく参考にされている(と思う)。

『フューリー』独自の美点としては。。
冒頭、いきなり残骸としてシュルツェン付IV号、パンター、IV号駆逐戦車(ヘッツァー?)のシルエットが映り嬉しくなる。
アッセンブルポイントの再現も、ナニゲにM26ドラゴンワゴンやD型SPWが3輛映っていたりと素晴らしい出来だった。
車内はセット撮影されているのだが、セットに見えない出来映えで素晴らしい。
対歩兵戦でHEを短延期に信管調定するカットがあってスゴイ(反跳弾を撃つ為)。

移動中、砲手か装填手が砲塔外に出ているのもリアル。
英軍シャーマン隊の戦記でも、(特に砲塔ハッチが一つしかない初期砲塔では)脱出が遅くなる装填手は必ず車外に出ていたと書かれていた。
フィールドマニュアル通りの発令もあって良かったが、セリフにする為か若干崩してあって少し残念?
独軍の考証も良いと思う。
捕虜の群にルーマニア軍?らしき軍服も見えマニアックだなと。

突っ込みどころ。
機甲歩兵が出て来るが、全体にヤルキがない感じで減点。
終戦が見えてきているので、あまりヤルキがないのは理解するが、動きが素人くさすぎるように思う。
N軍曹は見るとFURYになると思うので、見ない方が良いでしょうw。

Sザロガ氏によると76ミリ砲にはWPがないハズなんだけど、FURY号ガンガン撃ちます。
そこはまぁ良しとしても、時代の流れ?に乗ったか、WPの焼夷効果が強調されていてちょっと?
WPのエフェクト自体は満点。

PAKを潰した後、平原に暴露したまま全車両を停めておくのは?
私なら林が目の前にあるのだから、全車を林に隣接させて停めるなぁ(少しでも目立たない様に)。
休んでいる歩兵も林に入ると思うけど(目立って狙撃されたくないもん)。

(ここから少しネタバレします)


問題の最後の戦闘。
車長の戦術指揮が間違っているように思う。
ほぼ同じ状況を描いている日本映画『五人の突撃隊』の方が遥かにリアルに感じた。
この映画も戦後映画で日本軍が実物戦車を使ってリアルに戦う、おそらく唯一の作品なのでオススメ。

視認出来る限りの距離を取って、HEと同軸(連装)MG主体の攻撃の方が良かったのでは?
PFの射程(60m程度)内に近づけないように早い時期から攻撃した方が、どうせ絶望的なら良いように思う。
演出意図としては、あそこで死闘すれば良いだけなので。。
そうなると『THE BEAST』と同じ感じになるから避けたのかな??
それとも確実に少しでも多く倒した演出をしたいから、あのような戦法を取ったのか?

普通の歩兵なら、戦車に脅威があるかどうか調べに斥候を近づけ確認してから本隊が来るので、斥候を皆殺しにして(ここは引きつけて良い)距離を取った戦いになり、散兵を斬減させつつ徐々に間合いを詰められて。。
又は眼鏡で敵生存者ナシと判断して接近する迂闊な敵なら、一本道の緩いカーブの向こうで足止めし。。という描き方だったら95点だったなぁ。。。。

と言いつつ、もう一回観ても良い作品であるのは間違いないので、差し引きで70点という感じ。
パンツァーフロントの「10月農場」みたいな対虎戦も、もう一度見たいしね。

-------------追記
後になって思い出したが、暗くなってから霧が出て来てたか。。。
明るいうちから視程100m以下の濃霧が出てれば、あの判断で良かったのかな。。