兵士は一目散に逃げていった。
魔物の娘に手を出したという罪悪感に、未来永劫苦しむがいいと、俺は願うばかりだ。
俺は鎧の魔物であるダンテに助けられた。
いや、俺だけじゃない。決闘を申し込もうとした、オメガ、サラ、アビスをも守ってくれた。
王国の兵士と決闘し、勝つのは当然としても遺恨を残す形となったろう。
世の中は常に複雑で面倒だ。見える範囲の正義を振りかざすことがどれほど安易で短絡的かと思う。
例えば、この件でも、被害を受けたサイクロプスの娘以上に…。
「フィーネ、終わったぜ…。」
「ご、ごめんなさいです…。わ、私何の役にも立てず…。」
村人と魔物の人だかりの片隅で、しゃがみ込みガタガタと震える12才の少女。
村の娘ではない。れっきとした勇者セイジ一行の優秀な魔法使い「フィーネ=クライマクス」だ。
「アビス、フィーネを部屋に。
かなり怖がっている、夜まで付き添ってやれ。」
「あいよ、あんな連中を目の当たりにしたらね…。
大丈夫よ、全部セイジとダンテが片付けてくれたからさ。」
アビスに手を引かれ、漸く弱々しく立ち上がる少女。
「ごめんなさいです…。私、セイジお兄ちゃんの足手まといで…。」
「気にするな、フィーネが魔物には滅法強くても、『人間の男』だけは駄目なのはわかってるからな。」
「ごめんなさい、昨日まで一緒に遊んでたモノアちゃんとノアイちゃんがそんな目に遭ったって聞いただけで足がすくんで…。」
フィーネ=クライマクス。
天才的な魔力を持って生まれた故に親に捨てられた少女。
我流の魔法を駆使して、路上の孤児として生きてきたが、俺達の出会いにより、心を取り戻す。
特に最年長のアビスは彼女の教育に尽力した。
「あの娘は大人になっても、私の店じゃ働かせられないわね」が口癖。
また、ダンテが仲間入りしてからは、彼を魔法の師と仰ぎ、天性の才能が一足飛びに開花することになる。
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「オメガ、ちょっといいか?」
その日の夜、俺はオメガの部屋をノックした。
「なぁ、オメガ。寝る前にフィーネの部屋に行って声をかけた方がいいかなぁ?」
「い、いきなり部屋に来て、なんであたしにいちいち聞くのよ!?
フィーネちゃんの事はアビスに聞けば?」
「あっ、なんていうか…。」
「うん…。でもあたしに聞きにきてくれたの嬉しいよ…。
明日特に予定ないんでしょ?
お天気良いからフィーネちゃんをどっかに誘ったら?」続