王国からシオンの村に派遣された兵士。
その兵士様が俺の忠実な部下、サイクロプスの才蔵の娘に手を出したってんだから大変だ。
「王国の兵も地に落ちたな。
お前達の蛮行は元騎士団長のオメガ=カタストロフィが責任を取る。
全員抜刀しろ。拙者が切り捨てる。」
「待ってくださいませ、オメガ!
王国の不始末は私の責任です。
王族である私、ネハン=サラ=ソージュが決闘を申し込みます!」
「待ちな。才蔵さんの娘のノアイちゃんとモノアちゃんは私が人間社会でのレディの振る舞いを教えてたんだよ。
王国も騎士も関係ない。
ぱふぱふ屋の用心棒時代からこういう輩は数えきれないほど相手してきた。
このアビス=エデンに任せな。」
勇者セイジ一行の仲間4人の内三人の女性が決闘を申し込んだ。
サイクロプスは魔物とはいえ、シオンの村の復興に尽力してきた仲間だ。
強い絆に感動はするが…。
俺は現実世界での日本史を思い出した。
幕末に大名行列を横切った外国人を切ったことで国際問題になった生麦事件。
関ヶ原の戦の後、暴行を働いた福島正則の部下を咎めた番士と衝突が起きた伊奈事件。
緊張状態の相手国の罪を責めるのはとてもデリケートだ。
勿論、オメガ達がこいつらを切り捨てるのは簡単だ。
だが、王国の国民達に「切られても仕方ない。」
と思わせるにはまだ不十分だ…。
それでは俺の計画の第二段階である「世界七つの王国の解体」に国民が納得し辛くなる。
この兵士達は取るに足らない小石だ!
だが、この小石の躓きが俺の計画の大きな障壁になるかもしれない。
よし、ここは俺自身が決闘を申し込むしかない俺の金看板がまだ錆び付いてない今なら、こいつらの蛮行を知らしめた「勇者セイジ」の鉄槌として…。
「オメガ、サラ、アビス。やめろ、ここは…。」
と名乗り出ようとした時、その俺を制止したのは
「セイジ様、ここは私にお任せを…。『勇者セイジ』の評判を敢えて貶めるにはまだ早いかと…。」
「ダンテ!魔物のお前は才蔵と同じだ。奴らに大義を与える!」
「ええ、確かにこの伽藍堂な鎧姿ならそうでしょう。
ですが私には変身魔法があります。」
「ダンテ!」
ダンテは旅を共にした「仲間の怪物」だ。力は才蔵ほどではないが、平均的になんでも出来る所を買って仲間にした。
いまでは俺の「男友達の相談相手」だ。
「被害を受けた才蔵の娘に変身します。これなら『やり返しただけ』」です