「私は…。」
と、切り出したブリジットの表情は儚げではあったが、芯の強さがあった。
これから自分に起こるべきことを静かに受け入れようとしているようだった。
「私はアンドロイドです。人間の指示に従い、決定して貰いたいという傾向があるかと思います。
ただ…。」
「ただ…?」
「柿本様のお話は大変興味深いお話でした。
では私からこんなお話を。
世の中にはたくさんのアンドロイドが人間と人間社会の為に働いてますが、どれほどのアンドロイドが『使命』を全う出来ているのでしょうか?」
「…そうだな、こんなモグリ商売してる俺の所に改造を頼みにくるぐらいだから、正規ルートではもっと大変なんだろうな。」
「はい、容姿が気に入らないや言葉遣いが悪いならまだしも、満足に充電も定期点検もさせず、取り扱い説明書をまともに読みもせずに『こんなのを購入したつもりはない』と、あっさり返品交換や廃棄に出す始末。
主のわがままが故に、性格データもルックスデータも変更され、担当する仕事さえも変わり…、それは『自分』といえるのか?と、この私の拙い人工知能が袋小路に迷い込むほど結論が出なくなることが…。」
「アンドロイドが『自分とは何か?』の問いかけか?『哲学だな…。』と言う前に、アンドロイドの違法改造を生業としてきた俺には耳が痛てぇな。」
「ち、違います!言葉足らずで申し訳ございません。
柿本様は、幾多のアンドロイドに再チャンスを与えましたわ!発端が人間側のエゴだとしてもです。
人間側とアンドロイド側双方から、その仕事を通じて感謝し、感謝される。
これより素晴らしい関係があるでしょうか?
無事に役目を終えて引退出来るアンドロイドはごく少数です。
そんな中私は、長秋様と柿本様のお役に立てる道が見えました。
本当に感謝しています。
先ほど、『自分とは?』との哲学の話が出ましたよね。
哲学って信念から始まるんだと思うんです。」
「いい笑顔だぜ。こっちが辛くなるくらいにな…。」
「長秋様によって私は、人間には心があることを知りました。
柿本様によって私は、自分にも人の心が宿っていることを確信しました。
後は死に方だけの問題です。」
それは覚悟を決めたブリジットの、最も強い信念であった。
柿本は長い沈黙の後…
「俺に感謝してるか?」
「勿論ですわ、誰よりも…。」
「じゃぁ、残りの日は俺のことを『直哉』と呼べ。絶対に『様』は付けるな。」