小さなロボット修理工場で、二人の青年が声を荒げていた。
「何がまだまだだ!俺もお前も、それに何よりもブリジットちゃんはこんなに頑張ったじゃねぇか!」
修理工の柿本直哉は親友の在原長秋の胸ぐらを掴んで激昂した。
長秋は視線を落とながら、小さな声で反論した。
「あれから1ヶ月。然るべき機関にブリジットの件を発表してみたが、興味を示したのは科学雑誌の記者と工学部の学生程度だ…。肝心の医学界は何も…。」
「で、お前が確かな手応えを感じる為に、ブリジットちゃんをもっと重病にするつもりか!?
医療倫理学会に晒し上げされんのがお前の最終目標かよ!?」
振り上げた直哉の右手を制止したのは、「病 」の身体を押してベッドから起き上がった「アンドロイドの」ブリジットだった。
「やめてくださいませ、柿本様。
長秋様に手を出さないでくださいませ。」
「俺はこのクソったれの君への扱いに腹が立ってるんだよ!
テメぇの巧妙心の為に、自分のアンドロイドを死に追いやるつもりか!?」
「そんな…大袈裟でございます。
私はまだ人間で言う『風邪』に相当した状況なだけですわ。
私は大丈夫ですから。それに…主の為に尽くしたいと思うのはアンドロイドとして当然ですから。柿本様、どうか、どうか長秋様へのお怒りをお鎮めくださいませ…。」
「けっ、あぁ、俺は君の主人じゃないからな…。
だが長秋が今後君を成人病や感染症とかに追い込んだとしても…俺が完璧に治してやるからな!
君の意志に反してもだ!」
「…随分と熱いじゃないか、直哉。
ブリジットはアンドロイドだぞ?しかも僕の。
まぁ…詮索はしないでおくよ。
僕が願うのはブリジットの病状を研究したデータが人間の医学に貢献することだ。
現段階では、ただの珍しいアンドロイドを開発した程度だ…。これじゃ人間の真似事をした『ミルク飲み人形』と変わらないじゃないか…。」
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「あっきー、兄貴の気持ちも理解してあげてよ…。私だってブリジットちゃんの今後は心配よ。」
「わかってるよ、樹乃ちゃん。だが人間なら躊躇する段階の際どい臨床研究に、アンドロイドのブリジットなら対応出来るのも事実なんだ!
それによってどれだけの患者が救われることか…。」
「とにかく、研究の規模が大きくなるならここは手狭になってくるわ。
私、明日からナースとして働きに出るわ。」
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「個人的なお話とはなんでしょう?柿本様。」
続