「けっこうなお手前で。」
この言葉を言わせる為の私の苦労を誰が理解出来るであろうか?
四選六道八連制覇の第二道『茶道』対決は無事に終了した。
我が萌慎艶戯塾側の赤峰摩亜耶さんと、羅漢塾側の山田洋法さんは何の邪魔もされずにお茶を点て、互いにもてなし合い、
「けっこうなお手前で」
の決まり文句で締め括った。
会場には派手な乱闘を期待した者も居ただろうが、山田さんが醸し出す耽美な佇まいに水を打った様に鎮まり、彼に遅れまじと、たどたどしい手つきながらも、一生懸命に茶筅や茶釜を相手に奮闘する摩亜耶さんに対して、会場の誰もが愛娘の運動会を見守る様な気分だった。
勿論、一番隣で見守る私もそのような気分だったが、私の気苦労は摩亜耶さん以上…。
「フハハハ、よくぞ堪え抜いたものだな。鳥のお嬢さんよ。」
「あ、貴方は、私達をいつでも襲うことが出来たはずなのに、何故、私を試すような…?」
「凄惨な場面を見せれば、傍らの山田殿の手前に狂いが生じる。
それだと美味い茶が飲めぬ。
それだけだ…。
だが、正直、それがしが発する『気』に鳥のお嬢さんが我慢し切れずに、その太刀を抜いて斬りかかると思ってたが…。
斬らなかったのかい?
それとも斬れなかったのかい?」
「…強者ほど相手の強さを知る…私なんかが及ぶ相手ではないことは、『視殺戦』の中で十分に思い知らされましたから…。」
「鳥のお嬢さんの忍耐力が、蜂のお嬢さんの手前を守って、引き分けという結果に繋げたんだ。
もっと誇りな。」
「わ、私は…何も出来なかった!
茶道では言うに及ばず、武道でも武士道でも貴方に…。」
「それでいいんだよ。
『備える』ってのは、『何もなかった』ってのが一番の結果なんだよ。」
「かごめちゃん、狼男さんの言うとおりだよ。
私、ホントは手が震えるほど怖かったけど、『大丈夫、かごめちゃんが守ってくれる』ってずっと心の中で言い聞かせてたんだよ!」
「摩亜耶さん…。」
「鳥羽かごめさんでしたね?
僕からもお礼を言わせてください!
摩亜耶に貴女の様な立派なお友達が居てくれたことに感謝します!
そして摩亜耶の大切な友達は、僕に取っても友達だ!」
「あ゛…そ…う…です…ね…はい…。」
「ファッハハハ、一刀両断したのはそれがしではなく、山田殿だったか~!」
「ヨシノブ…さん、貴方最初から…!?」
「狼は鼻が利くんだよ。特に乙女のニオイにはな」
続