「う、う~ん…。
あれ、あたし…?」
「良かった!気が付いたのね!」
「そうか、塾長に敗れた私は気を失って…。筆頭の私はミラとかごめを守る立場なのに、自分が真っ先に倒れるなどと、何と情けない…。
貴女は確か、塾長が連れてきた…。」
「堅城治美よ。
妖怪の貴女達に私なんかが何を教えられるんだろう?って思ってたけど…。
保健室も医務室もないこの塾なら、取りあえず私が校医?になるわ。」
「堅城教官が自分を手当してくれたのでありますか?」
「止めてよ、目暮さん。治美先生でいいわよ。
でもびっくりしたわ、人間に変身した貴女は外見だけじゃなく、内蔵から血管まで人間なのね。
私が勉強してきたことが馬鹿らしくなるじゃない。」
「…治美先生が人間の医師として、人間の身体のことを教えてくださったら、塾生が人間社会に出る時に凄く役に立つと思います。」
「そう、ありがとう。赴任早々に居場所とやりがいが見つかって良かったわ♪」
「治美先生は何故、人間社会を離れる決断を?」
「…ぬりかべ…って知ってる?」
「名前だけは知ってますが、私が知る限り、一号生にそのような妖怪は在籍してません。」
「そっかぁ、そんな直ぐに出会えないか、残念♪
ぬりかべってねぇ、その大きな壁の身体で通せんぼする妖怪なんだよ。」
「迷惑な妖怪ですね…。日本妖怪らしく一部に特価した妖怪でしょうか?」
「ううん、ぬりかべは『進んじゃいけない道』を通せんぼしてくれる妖怪なんだよ。夜道に迷って同じ所をぐるぐる回るのはぬりかべの仕業。でもそれは『冷静になりなさい』ってメッセージ。
『もうここから動かない』って決心した途端に道が開けるのよ。そうやって見た目は怖くても子供を導いてくれるんだよ。」
「優しい妖怪なんですね。」
「…医師としてじゃなく、一人の大人の女の私の前にぬりかべは現れてくれなかった…。
女として絶対に進んじゃいけない道を進み過ぎちゃった…。
だから塾長の誘いをチャンスと思って、振り返らずに全てを捨ててきたわ…。そうでもしないと脱け出せ…ごめんなさい、貴女にはまだ早い話だったかな?」
「治美先生が萌慎艶戯塾に来ると言うことを、ぬりかべは阻止しませんでしたよ!」
「ありがとう、目暮樹里亜さん。貴女は強いから一号生筆頭なだけじゃないのね♪」
「萌慎艶戯塾で筆頭になれなければ、スライム族の姫には不適格でしょうから。私の宿命なんです」
続