「天界」。それは天使達の支配欲と出世欲と自己顕示欲が蔓延する恐ろしいほど危険で退屈な世界。
徳の高い人間が思い描く「天国」や「極楽浄土」とは遥かにかけ離れた世界。
四文字の「あのお方」は地上界に昼と夜を、空と海を、草木や魚や獣を作った。
そして6日目の余った時間に…それはただの享楽で酔狂だったのかもしれない。
「自分に似ている者」ただそれだけの動機であの方は地上界に「アダム」を作った。
あの方はアダムのみを愛した。アダムを愛するあまりエヴァまで作った。
ヤハウェの偏愛は常軌を逸していた。
二人が禁断の果実を食べても天界と地上界を切り離すのみに留め、二人の子孫が増えようとも、二人の子孫同士が殺し合おうとも。
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楽園を追放されたアダムとイヴは恥ずかしさと痛みに耐えながら長男カインを産み、続いて次男アベルを産みました。
カインは大地を耕し野菜を作り、アベルは羊を飼いました。
ある日二人は、ヤハウェに収穫物を捧げました。
ヤハウェは露骨に自分の好みを示しました。
長男カインが作った野菜には目もくれず、次男アベルが育てた子羊ばかりを好みました。
誇りを傷つけられたことと、嫉妬に狂ったカインは弟・アベルの殺害を計画する。
アベルは兄・カインに言いました。
「ヤハウェは兄さんのことも愛してるよ」
アベルの言葉に反応もせず、鎌をアベルの喉に当て、刃を一気に引く!
育てた羊が見守るなか、アベルは大量の血を流し絶命した。
ヤハウェは当然の如く、怒りを露にカインに語りかける。
「お前は何てことをしたのだ。」
「ヤハウェよ、貴方は私を殺すのですね?」
しかし、ヤハウェの選択は違いました。
「カインよ、お前は額に弟殺しの印をつけたまま、永遠に地上をさまようがよい。」
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これでお解り?
ノア、アブラハム、イエス。
ヤハウェから愛された人間だけで地上の歴史を作ってきたわけじゃないの。
祝福されなかったカインとその子孫達はずっと肩身を狭く生き続けて来たわ。
時に「地底の悪魔」と手を組みながらね…。
「壮大なスケールに言葉もありませんが…三好さん、つまりカインの子孫が『妖怪』と呼ばれ悪さをしてると?ならばそれは天界の責任では?」
「ええ、でも、その中途半端な介入のおかげで、妖精界は新たな戦争の引き金になったの」
「戦争?」
「ええ、妖精界は今、近年希に見る『受験戦争』なのよ。
全員が天界の保護を受けられないの」続