死因は硬球が左側頭部に直撃したことによる脳挫傷。
当局による公式見解は勿論、「不慮の事故だ」
思えば姉さんは夏樹姉ちゃんが羨ましかったのかもしれない。
輝かしい栄光は常に独りだったからな。
運動が駄目でも、将来を寄り添うパートナーが居る夏樹姉ちゃんと、世間からチヤホヤされても独り寂しい自分を振り返った時に、早まった行動をしたのかも…。
だが、妹の婚約者との間に出来た命が育つにつれ、後悔の念が強くなって、俺に…弟の俺に裁かれることを選んだ…としか今は思えない…。
菊川春奈 享年22才の若さだった。
勿論、妊娠初期だった為にお腹の赤ちゃんだけでも…なんてのも到底無理な話だった。
父さんと母さんは悲しんでいたよ。
全てを否定された様な、全てを失った様な絶望感だった。
それから間もなく、父さんは大学野球の監督を辞任した。
その時になって漸く「せめて、春奈の婚約を公にしなければ…。」なんて言ってたよ。
こんな事になってでも夏樹姉ちゃんを思う言葉はなかったってな…。
これは妹の冬香から聞いた話だから俺には解らないが…。
「でも、夏樹さんにしたら、愛する隼人さんとやり直せるチャンスなんじゃ…。」
「馬鹿ね、東瀬さん。
どんな理由があったにせよ、自分の姉と子作りした男を許せる?」
「そりゃあ…そうだけど…。」
「わ、私は裏切らても、本当に好きなら信じたいです。
愛があれば…。」
「だからノノみたいな女が世の中の男を…。」
「あの早乙女さんの口から『子作り』って言ったー!」
「…小宮くん、そこだけ食い付かれると秋成が話続けられないんだけど…。」
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早乙女の言うとおり、だからと言って二人が直ぐにモトサヤ…なんて行かなかった。
夏樹姉ちゃんは隼人さんとこれからの事について、何度も話し合いを希望した。
だが隼人さんは夏樹姉ちゃんを避けた。
いや、夏樹姉ちゃんだけじゃない、俺も含めた菊川家全員からだ!
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…暫くぶりに隼人さんの方から連絡が来たと思ったら、『海外で野球をする』との答えだったよ。」
「非道いです!ゴタゴタを巻き起こした姉妹が居る日本に居たくないからって…。」
「米国でメジャーを目指すならまだしも、青年海外協力隊に参加して、中米グアテマラで指導者の道を選んだよ…。」
「極端ね…。」
「だがその3ヶ月後、滞在先のホテルに侵入した強盗の凶弾に倒れたよ。僅かばかりの現金が目当てだったそうだ。続