2014年9月7日
俺は「聖域」にまで踏み込まれた。
隼人さんは都市対抗にも出場するほど活躍し、所属するチームの中心選手となった。
俺はシニアリーグで全国優勝した。その時は四番遊撃手で、投手経験もあった。
隼人さんも俺も出身は同じリトルリーグだった。
そこから隼人さんはドラフト指名、俺は青森の某甲子園常連高校に特待生入学の話も上がっていた。
たがら「地元のスター対決」
として、社会人チームと中学生チームが練習試合をすることは何も不思議ではなかったのだが…。
お互いの健闘を称える爽やかな試合になるはずだった。
だが…。
「特別ゲスト」はそのグランドまで土足で踏み荒らした。
身重の身体で「妻でございます。」といった顔で堂々と関係者と保護者に挨拶をした。
水泳でオリンピックにも出たことがあるし、テニスでウィンブルドンに出たこともあるから知名度は俺達以上だった。
春奈姉さんは、最初から決めてたに違いない…。
あのグランドで婚約発表することを…。
夏樹姉ちゃんはその場に居なかった。
いつもは必ず俺の試合を観てくれてたが、数ヶ月前に「それ」を知らされ、失意のどん底で部屋から出なかったからな…。
だが、その場に夏樹姉ちゃんが居たら、俺の「決心」は鈍ってたかもしれないな…。
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「決心てまさか…?」
「あぁ、そのまさかだよ、慎が思ってることを俺はやったのさ…。」
「そんな…まだ中2だろ?」
「中2だからこそ、出来たことかもな…。」
「ねぇ、話の途中でごめんなさい。
テニス、新体操で活躍して、水泳でオリンピックにも出たことあるって…。
まさか菊川春奈選手?」
「おいおい、それじゃ『玉野』って、お母さんの旧姓かよ?」
「いいえ、俺と夏樹姉ちゃんが玉野姓を名乗れてるのは、『玉野隼人』さんのご家族の厚意です。」
「それって…。」
「今でも…。春奈姉さんがバックネット側に座っててくれたなら…って思うよ…。
その夏樹姉ちゃんを見下した優越感に浸った横顔が、一塁側スタンドに見えたから…。」
「本当なのか、秋成?」
「あぁ、慎が居てくれるこの場所だから言える。
俺は狙った。
だがビビらせるだけのつもりだった。
あそこまで強烈なライナーが飛ぶとは…。
でも、でも、姉さんは避けなかった!
あの瞬間、姉さんは身動き一つしないことを選んだんだ!」
「大丈夫だよ、誰も秋成を責めないから、大丈夫だよ。僕も…。」
続