「秋成、運命を変えたいならお姉ちゃんと来て」
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夏樹姉ちゃんと玉野の親の交流は続いた。
遅くに隼人さんを授かり、異国の地で冷たくなった我が子と再会した二人に取って、夏樹姉ちゃんとの交流は文字通り「生き甲斐」だったかもしれない。
俺も暫くして、手付かずの…そう、時間が停まったままの隼人さんの部屋を見せて貰ったよ。
玉野の親は俺達に
「またいつでも隼人に会いに来てやってください。」
と言ってくれたけど、姉ちゃんはキッパリと言ったよ。
「いいえ、私はお義父様とお義母様に会いに来てるんです!」
てな…。
菊川家の人間に対しては一度もあんな態度は取らなかったのにな…。
養子縁組みの話はトントン拍子に進み、母さん…あぁ、玉野の母の生家があるこっちに来たってわけさ…。
グアテマラにスムーズに行けたのも、滋賀に転勤の口があったのも、スポーツとは関係ない姉ちゃんの仕事のおかげだった…。
俺は…夏樹姉ちゃんと一緒なら何処でも良かった。
妹の冬香には
「行っちゃやだ!私を独りにしないで」
って最後まで泣きつかれたけどな…。
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「そして僕は秋成に出会ったと…。
僕は隼人さんに似てたから…?
がんばり屋で努力家じゃなかったら…秋成の目に止まらなかったの…かな…。」
「慎は慎だよ…。
最初は金城慎太郎の存在が姉ちゃんを元気にしてくれる…って思ってたけど…俺が…求めたから…。」
「それは隼人さんにしても同じ?」
「そうだな…。
夏樹姉ちゃんの為って言い聞かせながら、俺が許せなかったんだ。
俺が春奈姉さんを憎み、俺が隼人さんとの時間を求め、俺が二人の婚約を許せなかった…。」
「フム…自己同一性というやつですかね。」
「二本松先生…。」
「お姉さんと同じ感情、価値観を持つにつれ、お姉さんが求めてることを自分も求めてることに気付かなくなってしまったのでしょうねぇ…。
夏樹さんと隼人さんが順当に結婚されても、それはそれで玉野君の『闇』に変わりはなかったかもしれません。」
「先生のいうとおりです。
だから俺は…本当の自分が愛する人を…。
いや、結局、夏樹姉ちゃんみたいな女性を求めてしまうんでしょうけど…。」
「……。」
「……。」
「あの…。秋成、今、女性って言った…?」
「あぁ、こんな俺を理解してくれる彼女が欲しいって贅沢だよな?」
「その笑顔やめろ!何で僕の方がフラれたみたいになるんだよ」