**玉野秋成到着から三分経過、重い沈黙から漸く口を開く**
「随分とご挨拶だな…。こっちは決死の覚悟で都倉さんに謝りに行って、早く会いたい一心で急いで駆け付けたのに、来て見れば慎は女達に囲まれ…。顔も見たくない…。」
「……。」
「……。」
「いや、だからって、俺の真後ろに座って背中越しに呟くなよ!スゲー怖いから!千本ノックより怖いから!
取りあえず空いてる席に座れよ!
都倉さんはどうだったんだよ?心配してたから話してくれよ!」
「…都倉さんの容態『だけ』心配なんだな…。」
「私の玉野君やっぱり可愛い…。」
「私も…二人の微妙な距離感に萌えます…。」
「いや、ノノも早乙女さんも感覚おかしいって!その共通の趣味はアニメまでにしてよ!」
「玉野君、移動中に私と約束しましたよね?包み隠さず皆に全てを話すと。
真山主将が証人ですよね?」
「玉野、二本松先生の言うとおりだ!
勇気が要るのはわかるが、ここにはお前の話を聞いて態度を返る奴は一人も居ない!主将の俺が保証する!だろう?」
「…悲しい話で気を惹きたくない…。憐れみや同情なんて…。」
「そうだ玉野!早乙女さんの同情を買おうなんて…痛い!痛い!東瀬さん痛いよ!」
「あぁ、秋成。昔話が話にくいなら取りあえず都倉さんは何て…。」
「…包帯がぐるぐる巻きで表情はわからなかったが…『試合中の出来事だから』と繰り返すだけだったよ。
包帯の上からでも、悔しさは痛いほど伝わったよ…。
最後は真山先輩の手を握って『頼んだぞ』言ってくれたよ。
先輩が居てくれて…良かったです…。
姉さんの時は…最期の言葉が聞けなかったから…。」
「話してくれるんだね、秋成?」
「あぁ、慎だけじゃなく、みんなに知ってほしい。同じチームで闘う仲間として。」
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スポーツ一家に生まれた俺の父は大学野球の監督、母はソフトボールの日本代表だった…。
長女の春奈姉さんはその遺伝子を受け継ぎ、新体操や水泳、テニスで輝かしい成績を残した。
次女の夏樹姉ちゃんはそんな姉と対照的にスポーツはてんで駄目だった。
そして俺。親にしたら待望の男の子だ。
妹の冬香(ふゆか)も女子野球をやってる。
夏樹姉ちゃんだけ運動は駄目だったが、姉ちゃんは幸せだった。
俺の野球の師匠の隼人さんと婚約したんだから。
俺は夏樹姉ちゃんと隼人さんを心から祝福した。
だが、長女の春奈姉さんが全てを奪った!続