秋成から送球されたボールは加賀谷先輩のファーストミットに快音を立てて収められた。
一塁審判が大袈裟なジェスチャーとともアウトを告げ、主審がゲームセットをコールする。
勝った!本当に勝ったんだ!公立高校の僕たちがシード校破りを本当に実現させたんだ!
…勝利しても過度には喜ばない。
この試合は警告試合だ。
試合が終わった途端に負傷退場した都倉投手のことが気になって仕方ない。
僕たちの勝利は、都倉さんが緊急降板しなかったら…。
「ありがとうございました!」
両チーム整列して一礼をする。
悔やんでも悔やみ切れない山大付属ナインの表情。
これが勝負の世界ってのは、僕の頭ではわかってるつもりだけど…。
「あ、あの…。」
去り行く相手チームに、恐る恐る声をかけようとしたのは秋成だ。
いつも自信過剰で偉そうな秋成とは別人のようだった。
か細い声に山大付属のメンバーに振り向きもしなかった。
それでも相手を追おうとする秋成を制止したのは真山先輩だった。
「やめとけ、玉野。
謝るのは当事者に対してだけにしとけ。
イタズラに相手のプライドを傷つけるだけだ…。」
「先輩…。」
「では、玉野君。
私と行きましょうか。
祝勝会には遅れるかもしれませんが…。」
「はい…。」
「先生、俺も主将として一緒に行きます。」
「わかりました。
貴方が一緒なら玉野君も安心するでしょう。」
二本松先生は秋成と病院に向かうつもりだ。
故意のピッチャーライナーで都倉さんの顔面を砕いた秋成は、謝りに行く決断をした。
キャプテンの真山先輩と一緒に。
秋成はどんな気持ちで謝るんだろう?
都倉さんはどんな態度を取るんだろう?
「先生、俺も行きます。」
捕手の真喜志先輩も一緒に行くと言い出した。
僕も…。
「真喜志くん、君は加賀谷くんと一緒に祝勝会の方を頼みます。
他のメンバーに心配をかけないのが貴方達の役目です。
金城くん君も…。」
「は、はい!
僕は…。」
急に名前を呼ばれて驚いたけど…。
「君が傍らに居たら、玉野君も謝りにくいでしょう。私達が戻るのを待っていてください。」
「わかりました…。
秋成…。」
「慎…。」
大丈夫だとはわかってるのに、一瞬でも秋成と離れるのが苦しかった。
一回戦と同じく僕たちは「勝利の抱擁」をした。
僕たちがキツく抱き締め合い、お互いを刻んでも、それは「勝利の抱擁」以外に許されないんだ。続