7回表
貴川西3-2山大付属
一死二塁。
遂に僕はやったぞ!
逆転の二点適時二塁打を僕が打ったんだ…!
ベンチから歓喜の声。
スタンドから女生徒の声援。
何て気持ちがいいんだ…!
ムードメーカーの加賀谷先輩が大声で盛り上げてくれてる。
東瀬は殆ど涙ぐんで喜んでるじゃないか。
そんなに僕に期待してなかったのかよ?秋成は?あぁ、ベンチの奥だな。ここからじゃ見えないな。
もっと、誉めてくれ…っていいたいけど、試合はまだ続いてる。打者としの使命を果たした次は、ランナーとして生還することだ。
「ボール」
打順はトップに還り一番の須永先輩。
試合はまだ七回。
一点じゃまだ心許ない…。
先輩、頼みます!
「ストライク!」
相手投手の球が走り出した。
やはり逆転を許して気合いが入ったか?
僕の時より勢いがあるし、山大付属のナインはまるで今、試合が始まったばかりのようだ。
リードされてるのに、リードしてるように振る舞えるなんて…これが強豪のメンタリティか?
「ボールフォア!テイクワンベース!」
「いいぞ!須永先輩!ナイスセン!(選球眼)」
「ようし!今度はバットで僕が山大付属に引導を渡してやる!」
二番に入った投手の小宮くん。
先発の真山先輩がライトに回ったから、ライトで先発出場した川中先輩の打順に小宮くんが入った形だ。
「ストライク!」
豪快なフルスイングで一球目を空振りした小宮くん。
バットとボールは大きく差が開いていた。
大丈夫かな?小宮くんが打撃練習で快音を響かせたなんて、僕の記憶にないよ…。
「ストライクツー!」
やっぱり。悪いけど当たる気がしないよ…。
これならツーアウトでもいいから送りバントした方が良かったかな?
その時、一塁ランナーの須永先輩が、僕と二重盗塁のサインを出した。バッターボックスの小宮くんもサインに頷く。
うわぁ、盗塁か…緊張するなぁ…牽制で刺されないように…。
「今だ!」
自分としては最高のスタートを切ったつもりだけど…。
「カキン!」
バカ!小宮くん、何で打つんだよ!こんな時にバットに当たるなんて…!
三塁に向かう僕を横切るかのような左中間への鋭い打球!期せずしてヒットエンドラン成功か?
と、思ったのも束の間、相手センターのダイビングキャッチ!
直ぐ様起き上がり、二塁に送球され、僕は帰塁出来ずに二重殺。
場内の歓声はため息に変わる。
七回表、終了。