金曜日の夕暮れ。
僕達二人は用具庫に居た。
チャンスは今しかない。
僕は思い切って玉野君に気持ちをぶつけてみた。
ここを逃すと、気持ちが定まらないままに試合を迎えることになる。
そんなのはチームにも、玉野君にも…東瀬にも迷惑だ…。
東瀬、僕は君を守りたいという名目で玉野君と親密になることを選んだ。
でも、今は玉野君と親密になりたくて、君を心の中から消し去る最もな理由を探してる自分が居るんだ…。。
「玉野君!」
少し上擦った声で呼びかければ、
「どうした?」
と、静かに笑顔で振り返る。
東瀬が傍に居た時には見せなかった、まだ僕にしか見せたことのない笑顔だ。
「小宮達を先に帰してまで、俺に聞きたいことがあるんだな?
守備か?バッティングか?」
相変わらず野球のことしか頭にない玉野君。
だからこそ…。
「守備…いや、玉野君と組むことそのもの…いや、きっと入学して出会ってから、ずっと聞きたかったことだよ!」
「そうか…。
俺と組むこと…。
金城、お前は俺の課題を、予測を遥かに上回るスピードでクリアしてきた。
だが…。」
「待って、質問してるのは僕だ!」
駄目だ、この目、この声にいつもペースを乱される…。
「玉野君、聞いて!君はどうして僕を選んだんだ?」
言った…。これを聞けば、華麗な二遊間コンビは今夜限りかもしれない。
でも…。
「奇遇だな、金城。俺もそれを言おうとしていた。
それこそが俺と組むに当たって最大の足枷だ…。」
「足枷?」
まさか、玉野君も東瀬を気にして…?
コンビプレーに支障きたすってこと?
「口の悪い連中の中には…。」
「珍しいね、玉野君が他人の陰口を気にするの?」
「黙って聞け。
問題は俺たちの名字だ!」
「名字?」
「玉野の玉、金城の金を取って…てことだ…!」
頬を紅く染めながら小さな怒りを僕に吐き出す玉野君。
「プッ、アハハハー!そんなの気にするんだ?意外だな~。」
駄目だ、不覚にも今、「可愛い」って思ってしまった。
東瀬にさえ、こんな感覚…。
「笑うな!俺には、いや、俺達には真剣な問題だ。
送球の時に、いつも『セカンド』『ショート』ばかりではいかないだろう?」
「そうだね、じゃぁ、簡単な解決方法があるよ。
秋成って呼んでいい?」
「…俺も慎太郎って呼んでいいのか?」
「長いから慎でいいよ。」
「じゃぁ、俺も秋で。」
結論ありきで聞いたな?