「お兄さん…優しいね…。久しぶりに恋人に抱かれてるみたいな感覚だったわ…。」
「上顧客を見つけたら営業モードに切り替えか?
口も上手いんだな。
確かに上手かったけど(笑)。」
「ううん、そんなんじゃないよ。
別に追加料金ふんだくろうってわけじゃないんだけど…。
ねぇ、初対面のあなたにこんな話する私もおかしいんだけど…。
ねぇ、お兄さん、私の妹に会ってみる気ない?」
「やっぱり営業じゃねえか?
それとも手が後ろに回る手伝いをさせたいのか?」
「売人とかそっちの話じゃなくて、ホントに素人の私の妹。訳ありで引きこもりになっちゃったんだけど…このまま男が出来ないまんまも不憫だから、お兄さんさえ良かったら会ってくれないかな~?
って思ったの。」
「一回寝ただけで、俺が信用出来る男と思ったのか?
それは立ちんぼ姉さんの勘か?」
「そんなんじゃないわよ…。
何か…久しぶりに良かったから…妹も、こういう女の幸せを知らないままじゃ可哀想だし、私だけこんな思いしたら…。」
「ただの引きこもりじゃねぇみたいだな。
妹さんは君が原因で男に恐怖を感じるようになったんだな?」
「うわぁ、お兄さん刑事みたいだね…。
うん、最初は金払いのいい私の常連客だったんだけどね。
たまたま昼間に町で妹と買い物してる時に鉢合わせして…。」
「お前さんから妹さんに付きまとうようになった…と…。」
「ええ、クズなあいつは妹の仕事場までやってきて、あること無い事を…。
身体は無事だったけど、心に深い傷がついて、外出もまともに出来なくなったわ。
姉妹二人で世間に負けずに生きてきたけど…私がこんな仕事さえしてなければ…。」
「わかった。
取りあえず妹さんに会うだけ会ってみよう。
但し、昼間に会って、ちゃんとした店で三人で食事をしてからの話だ。」
「えと…連絡は…?」
「明日の昼に、今日と同じ場所で。
それで会えなかったらそれまでだ。」
「そっか、お兄さんにも仕事や家庭があって当然だもんね。
いいよ、どうせ私達暇だし。
それですっぽかされても、『優しい嘘』って思って恨みはしないわ。」
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次の日の正午、彼は本当に現れた。
妹を連れ出すまでには骨が折れたが、彼を見た瞬間に妹の顔が三年ぶりにパアッと晴れたのが直ぐにわかった。
この恋が育って行ってほしいな…。
でも、私には悩みが二つ。
「私も」惚れたことと彼がホントに刑事だったこと。
終