「まぁ、こんな嵐の夜にお一人で旅を…。
さぁ、どうぞお入りください。」
「申し訳ございません、愛馬ウィリスがすっかり雷に怯えてしまいましてね。」
「雷が怖いのは人間も馬も違いがありませんわ。
馬小屋に案内致します。」
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「アーシー!落ち着きなさい!
今晩限りのお友達ですよ。
仲良くなさい!」
「…この家にはずっと一人で?」
「アーシーと一緒に主人の帰りを待っています。
立身出世を夢見た主人は、私とアーシーを残し、この子の夫リジェに跨がり戦地に行きましたが、未だに便りの一つもありません…。
申し訳ございません、ですから暖と食事はおもてなしすることは出来ますが、寝床は納屋に毛布を用意させて頂くことになりますが宜しいでしょうか?」
「ええ、雨ざらしに比べたら天国ですよ。」
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「しかし、戦地から未だに戻られないとは…。ヘドマスの役ですか?」
「いえ、ユニクロンの役の時に家を出ましたわ。」
「本当ですか?じゃぁもう三年も…?!」
「喪服を着ることも、戦没者の合同葬に参列することも出来ませんでした…。
ましてや伯父が勧める再婚の話なんて…。」
「…早く戻られるといいですね…。
温かいスープをご馳走になり、ありがとうございました。
では、馬小屋の様子を見に行くとしましょうか…。」
「まだ宜しいじゃありませんか!」
「……。」
「…ワインはいかがですか?」
「…ワイン?」
「主人が帰って来た時にお祝いしようと、取っておいたワインです。」
「駄目です!
貴女がそれを開封することは…。」
「もう三年も待ちましたわ!」
「な、納屋に行きます!
今夜はもう…。」
「では、私も納屋に行きます。」
「そんな…。」
「貴方を納屋に泊めることには違いなくてよ…。」
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「おはよう、アーシー、ウィリス。
すっかり仲良しになったのね、私達みたいに…。」
「仲の良い二頭を引き離すのは忍びないな…。
置いていきますよ。
宿代としてウィリスを受け取ってください。
女手一人では何か不便でしょう。
本当は自分もここに…。」
「申し訳ございません、もう少しだけ帰りを待たせてください。」
「…全部わかってますよ…。
それではお幸せに…。」
主人は十年前に病死してますが女一人で気楽に暮らしてます。
最初の旅人はワイン。
次の旅人は雌馬。
今回の旅人さんは雄馬を置いて行ってくれました。
終