プログラムを後生大事に抱えた貴婦人達が慌ただしく席に戻ってきた所で二部が始まる。
幕間の販売所に本物のジオン=キャラガーが現れるというのは、悪意ある噂だったようだ。
貴婦人達は自分の美を自慢する為に躍起だったが、一向にジオン兄さんは現れる様子はなく、せいぜい販売所のプログラムを大量に購入して金持ち自慢をするのが関の山だった。
過去の演目や学術書まで売られていたが、あの時の会議で話題になった「アマテラスの民」や「大破壊」に関する書籍は完全に姿を消していた。
代わりに古代ギリシャに関する書籍が多数並んでいた。
確かに南海の孤島を目指してジオン兄さんとミネルバ王女は船出したが、目指す先はエーゲ海の島々が妥当であろう。
貴婦人達は古代ギリシャの学術的な興味より、余暇を過ごす別荘地としてエーゲ海に興味を持ってるに過ぎないのだろう。
古代ギリシャの統治体制や神話から学ぶ故事などには興味ないのだろう。
かくいう私も、ロイが楽しそうに語ってるのを聞いて知ってるだけなのだが…。
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意を決したミネルバ王女。
涙は枯れはて、絶望の面持ちのまま戴冠式に臨む。
この日の為にリトマネン教皇は遠方から訪れ、現国王の冠を預かり、新国王となるミネルバに授けようとする。
聖書に基づく訓示を長々と語り、この王位継承は主も認め祝福したものだと繰り返す。
(いや、認めるか否かはカトリックのさじ加減一つだろう。)
と、本物の戴冠式には思いもしなかった言葉がよぎる。
役者が演じる舞台だからこそ、私はこのような感想を抱くのだろうか?
自嘲気味に冷めた目で観ていると…。
彼が来た。勿論、「舞台上の」ジオン=キャラガーだ。
ジョン=カイザー丞相は本物のジオン兄さんより20も年上だが、そんな事を感じさせず、衛兵を相手に舞台狭しと躍動感溢れる大立ち回りを披露する。
「ジオン!私のジオン!必ず来てくれると信じていました!」
「すまないミネルバ。
俺は『女王陛下』ミネルバを連れて逃げなきゃ行けなかったんだ。
何の躊躇もなく国を捨てる様な女なんかと添い遂げたいとなんか思わないさ!」
「ジオン!一度でも貴方の愛を疑った私をお許しくださいませ!」
「愛に完璧を求める者は、月に満ち欠けをするなと言うようなもの。
沈まぬ白夜が『永遠』の象徴であろうものか!」
「瞬きの愛の中にこそ永遠は存在するのですね。
今この瞬間、ミネルバ=リーセは最高に幸せです。」続