「リディア=ロンド様!
よくぞ居らしてくださいました!
おい、アンナ!リディア様が見えられたぞ!」
メルベリ殿の案内で劇場の楽屋に入らされた。
私を歓迎してくれたの50になろうかという男性だった。
舞台特有の派手なメイクと衣装は、これから始まる事が史実ではなく、演劇であることを象徴していた。
「カイザー丞相、お久しぶりです。
私はあくまで一般人として観客席から警護の手助けをするだけです。」
「リディア様!
お久しぶりです!
再会出来て嬉しいです。
貴女が団員と観客を守ってくれるなら百人力だ!」
「アンナさん…私はメルベリ殿の指示に従うだけですよ。
何もないなら、観劇を続けるだけですよ。」
「え~、リディア様冷た~い。
君と僕は同じ男にフラれた仲じゃない!」
「それを言うな!」
「……。」
「……。」
「すまない、辛いのは君も一緒だったな…。
だが…君は強いな…。
学問に演劇。
恋愛が成就しなくても、君には活力がみなぎっている。
それに比べて私は…何という体たらく…。」
「リディアさん、舞台ってね…そういう人達を元気付ける為にあるんだよ。
僕の演技を観て、貴女の明日の力の足しになれたなら、僕は女優になったことを誇りに思うよ!」
「アンナさん…。
し、しかし、相手役が父親のカイザー殿とは…?
政治と軍事に飽きたら今度は役者ですか?」
「ハハハ、姫が居なくなってから、また一段と忙しくなりましたよ。
だが、私がアンナの舞台に出させて貰ってるのは、リーセ王国の新たな幕開けの為ですよ。」
「幕開け?
演劇は市民の人気取りですか?」
「…遠からず、近からずですな。
後継者が居なくなっても、王室はまだ現存する。
これは盛大な『後始末』とも言えるでしょう」
「どういうことだ?あなた達親子はいつも回りくどい!」
「今日の舞台を観ればわかりますよ。
主役は観客だということが。
それは市民と国家の関係もそうだ…。
私は今日、その礎となる…。」
「ロイさんとも綿密に打ち合わせしたんだよ…。
でも、今日はこれないんだってさ。
エマさんの調子が悪いなら仕方ないね。」
この舞台で恐らくカイザー丞相は政治的なパフォーマンスをするのだろうか?
だとしたら、ジオン兄さんの名を借りての狂言か?
…今日、ロイが居ないことに安心してしまったのは何故だろう…?
***
「メルベリ殿、そういえばシスターフラウはどこだ?」続