「だとすると…」
ジオン兄さんの話に黙って頷いていたハイネ殿下が話だした。
私はハイネ殿下の優しい言葉を聞くのが怖かった。
大きな…そう、大きな自然の流れに逆らってはいけないのでは?と思いはじめている。
義務とか使命ではなく、過酷な運命を突き付けられても、自らの意思でハイネ殿下は選択したのだということは、私に十分伝わっているからだ。
「ジオンが『幸せ』と言った言葉を、僕は『豊かさ』と言い換えることが出来るかな?
誰もが王侯貴族の様な生活をすれば、誰一人、剣や包丁や鍬を手に取ろうとしなくなる。」
「…国民全てが私のように何も出来ない、何も知らない、知らされないで成長するかと思えば…悲劇ですわ…。」
「今まではな。
だが、幸せは与えられる物じゃなく、掴みに行くもんだ。
ミネルバのように『変わりたい』と危険を承知で外の世界に飛び込んだ僅かな人間が大破壊から生き延びたんだろ?」
それは僅かな勇気が未来を切り拓くということか…?
私に先人の様な勇気があるのだろうか?
私が携える剣も、身に纏う鎧も、誉れを示す勲章も…全ては軟弱な私の心を守るための道具に過ぎないのだろうか?
結婚して夫婦になるということは、構えることなく、ありのままの自分を優しく抱き止めてくれる人に身を委ねるというわけで…。
「でも、これだけは知っていてほしい。僕は決して我が国の為だなんて理由で…。」
「待て!!」
机を叩きながら席を立ち、殿下の話を遮ったのはロイだ。
「…それ以上先言う前に…一生のお願いだ!
殿下の家臣としてではなく、友として、同じ学舎で考古学を学んだ強敵としてのお願いだ。
先に俺に話させてくれ…。。」
「……。」
「いいよ、ロイ。
事前に断りを入れなかったのは僕の方だからね。
友として、先に発言することを認めよう。」
「ありがとう、ハイネ。」
敢えて敬称を付けなかったロイは、殿下に対して最大限の友情を示した。
「外に出た者だけが誠の勲章を授かったでわけだよな。
扉を開けなければ…俺も本当の気持ちを伝えなければならない。
リディア!ハイネ殿下がお前に求婚した時は青天の霹靂だったが、俺はお前を祝福したい!」
ある程度覚悟はしていたが、その言葉はの矢は私の心臓を貫いた。
そうか…祝福してくれるか…永遠の友として最高に嬉しいよ。
しかし、第二の矢は私の心臓を木っ端微塵にした。
「俺はエマが好きなんだ…。」
続