「……。」
昼の鐘が鳴り、一堂は会議室に戻ったが、誰もが口を開こうとしなかった。
ハイネ殿下も、ロイも、ジオン兄さんにカイザー丞相さえも、相手が切り出してから自分の主張をゴリ押ししようという意図が見え見えだった。
「……。」
「……。」
重苦しい沈黙を破ったのは会議の出席者ではなかった。
「さぁ、ハイネ王子に両大臣。そして外国のお客様方。
スールシャール王国の宮廷料理長のあっしが一番得意なビルベリーパイ

のお待たせです!
皆様一言もお話されずに、これを待っててくださるなんて、料理人に取ってこんな幸せなこたぁ、ありませんぜ!」
「料理長、その通りだ。
君のパイが並ばないと話が弾まなくてね。」
こういう時に配慮ある言葉をかけるのはハイネ殿下だった。
ロイもジオン兄さんも思い詰めたら周りが見えなくなるからだ。
勿論、私が一番そうなのだが。
「わぁ、噂に聞いてたより美味しそう!
このお菓子を見ただけで、舞台の脚本が一本書けそうだよ!」
真っ先に声を上げたのは学者女だった。
ドレスを来ている以上、見た目は女に間違いないのだが、この女を深く知らない料理長には、普通の女の様に振る舞うその仕草が…このカイザー丞相とそっくりだ!
「へへっ、人気女優のアンナさんがアルフォンソ=パウエル先生だったなんて言っても、女房は信用しねぇだろうなぁ~。」
『女房!?』
私も含めて会議室に居る全員がその単語に過剰反応してしまった。
きょとんとした料理長は…。
「な、何か変な事を言いましたかい?
そういや、ここで結婚されてるのはもしかしてあっしだけですかい?
独り身を貫かなきゃいけない司教様は別として、キャラガー外務大臣もジョン=カイザー丞相もいい男がいつまでも独り身ってのは…。」
「一つの家庭を築き、自らの『業』で家族を支える…。
素晴らしいことですわ。
民の一人一人が幸せな家庭をそれぞれに築くこと。
国を担う者はそれを責務と思うべきでしょう。
料理長、貴方の作ったビルベリーパイには貴方の愛情が込もってるのがわかります。」
「ミネルバ王女様!
勿体無いお言葉を…。」
「だが、民を幸せにするには、まず自分が幸せでねぇとなぁ?」
「キャラガー大臣、殿下の御前だぞ!」
「ロイ、構わぬ。ジオンに話させよ…もうこれが最期かもしれぬからな」続