
「アンナ先生はヤハウェ教を目の敵にしてますね。
信者なくても、この花と名前を愛でるものはたくさん居ますよ。」
「クリスマスローズの花言葉は「追憶」・「私を忘れないで」・「私の不安を取り除いてください」・「慰め」・「スキャンダル」。
全部僕に当てはまり過ぎてね…。
なのにキリストに関する名前が付いてて苛立ちを憶えただけだよ。」
「ヤハウェ教をそこまで嫌う理由は?」
「…ずっと自分の心と身体に疑問を感じてきた。
東の異民族の母様が苦労して僕を育ててくれたから、外で働く女性を当然と思ってた。
だから女は必ず男と結婚して子供を生まなきゃいけないって教えが嫌なんだ。
母様は貧しいながらも僕にたくさん本を読ませてくれたし、たくさんの教師に引き合わせてくれた。
その度に僕は自分が女であることに疑問を感じてきたんだ。」
「普段は男装してたり、アルフォンソって男の名前で活動してるのもそれが理由か?
でも舞台では女優なんだろ?」
「舞台ではあくまでその女性役を演じてる男性俳優のつもりだよ。
劇団は理解のある者だけを僕が選抜してるから。」
「んじゃ、丞相も『理解ある者』か?」
「ジョンは…。僕は僕のままでいいって言ってくれた。
アルフォンソって名前をくれたのも、誕生日にタキシードを贈ってくれたのもジョンなんだ。
凄く僕の心は楽になったんだ。」
「なるほど『不安を取り除いてください』か。
んじゃ、お幸せに…。」
「待ってよ、話はまだ続くの!
ありのままの僕を受け入れてくれたのはジョンだけど、
もう一度…自分の中の女を確かめたくなったのは…ロイ、君のせいだよ!」
「俺が…?」
「昨夜はトールの槌劇を観賞してくれてありがとう。
あの時、勇ましい騎士のリディアさんを優しく抱き寄せる貴方の姿が舞台上から目に留まってね♪
今までたくさんの恋人を舞台上から見てきたけど、こんな気持ち初めてだよ…だから何年ぶりかに今日は女性の姿でこんなドレスを…。」
「『スキャンダル』か…?」
「そう、僕自身がスキャンダルだよね。トールとフレイアの離婚の原因は本当は何だと思う?」
「まさか先生は従神ロキを演じてたから…」
「そう、ロキは実は女神でトールを奪ったんだ」