そういえば確かに、厨房でこの金髪のかつらを貸してくれた時に「貴女も訳ありのようですね」と言っていた…!
隣国の王女様が、我が国の厨房で殿下に昼食を作るなどと…?
しかも、料理長に扮したジオン兄さんから「ミランダ」と偽名で呼ばれ、下働きに徹してした!
自分が言うのもなんだが、騎士団長がメイドに化けて御前会議に潜入するのとは桁が違う!
一歩間違えれば外交問題だ!
いや、その原因を作ったのは我が国の外務大臣なのだが…。
ええい、ジオン兄さんはいつもいつも争いの火種を!
もうかつての山賊や海賊まがいの生活から脱出して、外務大臣の自覚を持ってほしい!
ただでさえ、殿下のこととロイのこと、厚顔無恥な丞相と学者女に振り回されているというのに…!!
「どうやら役者が揃ったみてぇだな。
まぁ、それぞれ思うことはあるだろうが、まずは飯食ってからにしようぜ!
んじゃ、エマ、リディア、新人調理婦のミランダは不慣れだから手伝ってやってくれ。」
「ジオン、ミネルバで構いませんわ。
まだまだ不慣れなことばかりでしたが…私なりに一生懸命頑張りました。
ジョン、丞相の立場として貴方のお怒りは最もでしょう。
ですが、まずはお料理を食べてからにしてください。
ジオンと一緒に作ったのです。」
ワゴンに乗せられた大鍋を二人で運び、テーブルの上の皿に取り分けられる。
テーブルには殿下を含め五名が着席してるが、大鍋はその倍はあるかというくらい大量に作られていた。
「たくさんあるからエマとリディアも椅子持ってきて食ってくれ。
俺達も食う。
本来なら最初から皿に盛って運んでくるんだが、大鍋からそのまま取り分けるのは、俺が作るのは全部漁師風料理だからだ。」
「海賊風だろ?ジオン兄さん。」
漁師も海賊も関係ない。ジオン兄さんは大鍋から取り分け、自分も同じ食事をする所を見せつけることで『毒を入れてない』を暗にアピール している。

「アンギーユ・オー・ヴェールってのが正式な名らしい。“うなぎをほうれん草、オゼイユ、ハーブ、白ワイン水で煮込んで、卵黄を加えるというのが代表的な作り方”だそうだ」
「うなぎ?」
「『実物』があった方が学者先生 が話しやすいからな」
続