「『トールの槌が大破壊の引き金となった』だって?
流石にそれは大袈裟過ぎないか?
トール神はあくまで俺たちアスガルドを護る北の大地の限定的な神だ。
仮に槌が悪用されても、その影響も極地的で、世界を滅ぼす『大破壊』には繋がらないと思うのだが?」
ロイの言う通りだ。アスガルド教は、リーセ王国とスールシャール王国の一部のみの多神教だ。
世界規模で見れば、ヤハウェ教ほど広く普及していなし、一神教の神は世界そのものだ。
「そう、だからこそアスガルドにのみとどまっていれば良かったのにね…。
太陽神アマテラスは、抜け目がなかった。
海の底に棲む怪物と取り引きをしたんだからね。」
「取り引き?神が怪物と手を組んだのか?じゃあ、その契約が悠久の時を経て破綻したから、大破壊は起きた。だが、人間社会全てが滅ぶほどではなかった。
ということか…?」
「簡単に言うとそうだね…。
でもこの場合は契約に最初から不備があったとも…。」
「リ~ン♪ゴ~ン♪」
学者女の話の途中だったが、正午を報せる鐘が礼拝堂から聞こえてくる。
と、同時に厨房から調理婦と料理長代理?が料理を運んできた。
エマは私より早くその様子に気付き、
「申し訳ございません、私達を呼んでくださったら良かったのに…。
給仕はメイドの仕事ですから…。
って…。
あ~!!」
「エマ、殿下の御前で大声を出すなど無礼な!」
本来なら新人の私が、先輩メイドを叱るなど許されないのだが…。
「あ゛…。」
厨房で金髪のかつらを貸してくれた時は、ずっと背中を向けてたし、自分がメイドに化けて潜入するので必死だったから…。
だがこの長身痩せ身で鋭い目付き。そして野性的な風貌とは対照的な高い声を、私は幼い時から知っていた。
「あの…何故、貴方が料理長の格好を…?」
「お前こそ、そのメイドの格好は何だ?
スカートの短さの分だけ、この会議に潜入したかったのか?
まぁ、動機は似た様なもんか?」
「料理長に変装せずとも、外務大臣の貴方は堂々とこの会議に列席出来る身分ではありませんか!」
「リディアちゃん、言っちゃっ駄目!」
「あっ、いや、エマ私はここではララァだ!」
「……。」
「……。」
「皆の者。もう良い。
王子である僕が認めるから、これ以上隠さなくてよい。
メイドのリディアに、料理長のジオン。楽しませてもらったよ。
だがそれより…ミネルバ王女様が何故、調理婦に?」続