(何という屈辱…!
エマ、これではメイドではなく売春婦だ。
我が愛剣があれば斬り捨ててるところだ!)
「ふむ、不自然に大きく膨らんで見えたのは、予めコルセット

に綿を増量していましたか…。」
(わ、私の小さな胸をこんな場所で言わなくてもいいのに…!
そうだ、戦場を共に生き抜いた我が愛剣はなくとも、私の内腿のベルトには短剣がある!
もう我慢ならん…!
が…私はどうしてしまったのだ?
身体が震えで身体が硬直して…手が短剣を握ろうとしない…。
怖い!
助けて…。」
「…おい!」
この獣の様な男ほど低い声じゃないが、聞き慣れた男性的な呼び声は、私からその手を離すのに十分だった。
「俺の茶はまだか…!」
ロイ…!
ロイはやはりこの光景を見兼ねて声をかけてくれたのだな?
だが、今の私はお前の知っているリディアではないのだぞ?
「申し訳ございません、ロ…シェルストレーム内務卿。直ちに…。」
「あぁ、ロイはグロッキは好みじゃないから代わりのものを。
君も一人前のメイドを志すなら、要人の好みは早めに憶えておくことだね。
勿論、他の未来を選ぶ選択肢もあるけどね。」
「ハイネ王子。
俺は別にエマが淹れるグロッキは嫌いじゃねぇぞ。長い付き合いなんだから知ってんだろ?」
「奥から代わりの物を!」
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厨房に引き上げた私は、エマが私の応対に怒ってるのは直ぐにわかった。
「…で?ロイとハイネ殿下が口を挟まなかったら、太ももの短剣でどうしてたつもり?」
「私は騎士として、いやそれ以前に女としての尊厳を…。」
「アホかー!」
(パチーン!!!)
遠慮なく私の頬を平手打ちしたエマ。
だがその態度は冷淡ではなく、私への熱い想いが込められていた。
「リディアちゃん個人のしょーもないプライドで丞相をあそこで刺したら外交問題やろ!
メイドと売春婦をごっちゃにして女をバカにしてんのはリディアちゃんやろ!
誰も触られぱなしでええって言うてないわ!
ああいう変態紳士には『あら、丞相さま、続きは、よ・る・に♪』って言って、身体と言葉を上手に避けるのが一流のメイドよ。
これが私みたいな超一流になると、わざとお茶をこぼすわ。」
続