「ロイ、『お取り込み中』とはどういうことだ?」
「女が男の上に跨がってるこの状況を、警備兵の青年や小間使いの少女が目撃したら『男女の楽しみ』にしか見えないだろ?」
「ば、馬鹿な…。
その辺りの商売女と一緒にするな!」
「『採掘の現場の野営に女が出入りしてる』との部分だけ聞けば、大抵の人間は『場末の娼館に御用立てした』と思うだろうさ。」
まただ…。子供の時からロイは私に組伏せられたら途端に『可愛い』とか『女らしい』とか見え透いた嘘で逃げようとする…。
そしてその時の笑顔は何故こんなに私の心を揺るがすのだ?
「そんなはずはない!
駆け付けた者は『騎士団長殿、ご乱心!出会え!!出会え!』と、総がかりで大捕物になるさ!!
ロイ、お前は何も解っていない!
騎士として武勇のみを誇りにしてきた私が、最も『お姫様』などという言葉から縁遠い人間ということを!!」
「おい、リディアどうしたんだ?」
「私は補給路を断たれた戦場で蜥蜴や蛇を喰って生き延びた!そんな私がお茶会でお菓子をおもてなし出来るわけがない!
武術に明け暮れた私が舞踏会に参加出来るとでも?足を踏みつけ、ハイネ殿下を押し倒すのがオチだ!」
「今、俺にやってるみたいにか?」
「ば、馬鹿!そうじゃない!
つ、つまりダイヤモンドの婚約指環を贈られるとはそういうことだ!
騎士としての殉職…。
私には生きながらにして死んでいる生活が待っているということだ!」
「なぁ、リディア。
『腕っぷししか取り柄がないからお姫様らしくない』じゃなくて、『お姫様らしくないから腕っぷしを磨いて騎士になった』じゃないのか?
確かにお前の黒焦げクッキーは…。」
「うるさい!あの時、エマと散々私を笑い者にしたことは忘れんぞ!
どうせ私はエマみたいに女らしくない!
ハイネ殿下はそれでも不味いとは一言も言わずに平らげてくれた!」
…そう、私はあの日から騎士を志し…。
主よ…貴方は何と残酷な試練を…。
ロイが私の婚約を何とも思ってないというこの現実を突き付けられた途端に、ロイへの気持ちを自覚するなどと…。
「だったら賭けてみるか?駆け付けた者がこの状況をどう捉えるか?」
主よ…。これは運命に殉じろとの声でしょうか?
わかりました…。
「誰かー!」
人を呼んだロイ。
ほどなく駆け付けた警備兵は…。
「騎士団長殿!ご乱心!出会え!出会え!」
…どチクショウ…!!(慟哭)続