「リディア、この指環を受け取り、これからは私の伴侶となってくれ」
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「女みたいな意見で誤魔化すな。」
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あぁ、私はハイネ殿下に女扱いされることに腹立たしい気持ちを抱いたというのに、今ここでロイに女扱いされないことに怒りを憶えるとは…。
私は殿下に騎士としての誇りを傷つけられたことに腹を立ててたのではなかったのか?
今は…私が結婚してしまっても、ロイは何とも思っていないのか?としか考えられない…。
やはり内務卿としてこの事を知らないわけがあるまい。
何よりもキャラガー外務大臣と共にリーセ王国のミネルバ王女との婚儀を進めてたはずだ。
それを今になって殿下が私に求婚するなどと…。
ロイはキャラガー外務大臣を幼い時から「ジオン兄ちゃん、兄ちゃん」と慕っていた。
そしてジオン兄さんはリーセ王国のミネルバ王女と友好な関係を築いていた…。
ロイがジオン兄さんに反発してまで殿下に進言するはずがない…。
ならばやはり殿下単独の狂言か?
そう…信じたい…。
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「どうした?これ

がそんなに気に入ったか?
欲しいならやるぞ?」
愚かな私はこのタイミングでロイから何かを受け取ることに衝撃を受けてしまった。
ロイにそんな意図はないのは解りきっている。
だが、「ハイネ殿下の婚約指環に対抗して」と、無理矢理思い込みたい私が居た。
「な、何を言うんだ?これは貴重な研究資料であろう?
考古学は素人の私が持っていても…。」
「大事にしてくれ。一つや二つ構わんさ。
中を見ろよ、この小さな歯車を。」
「あぁ…。何と小さく精巧な…。」
「古代人はこんだけ小さな歯車を作れるなら、一日一回巻くだけのゼンマイ時計を作れたかもな?」
「一日一回ゼンマイを巻くだけ?
それは何とも桃源郷のようなお話だな。」
「それだけじゃない、柱やランタンよりも小さな時計を作れるなら、古代人は婚約の時に指環ではなく時計を贈ったかもしれんな。
『二人で時を刻む暮らしを』
なんてな…。」
今しかない。
ロイが婚約指環の話を持ち出した。
ここで、ここで聞き出さないと私はずっと後悔することになる。
「もういい、ロイ!
次は私がお前に見せる番だ!
見ろ!
ハイネ殿下から贈られたダイヤモンドの婚約指環だ!
悪趣味だろ?ダイヤモンドは殉死した騎士に贈る勲章にのみつけるものだ!」