「どうか、今一度お考え直しを!
政は子供の遊びではございません!」
謁見の間を後にした騎士団長のリディア=ロンドは悔しさを押し殺していた。
マントを脱ぎ捨て、誰も居ない室内練習場で木剣を素振りし、
「どうして私なんだ!!
…私の…私の今までの努力は何だったのだ…?
大恩あるトレビル将軍が亡くなられて間もないというのに…。
…結局、私はただの女だったのか…?殿下の独断か…?まさか…?」
息が切れるほど無茶な素振りをし、木剣を無造作に投げ捨てた途端…。
「キャッ!」
背後から忍び寄る陰。
「あら…。いけませんわねぇ…。
騎士団長様ともあろう者が私程度に背後を取られるなんて…。」
「エマ…いつの間に…。
こら、中に手を入れ…。」
「『心の乱れは剣の乱れ』と部下に繰り返し言い続けてるリディアちゃんらしくないですねぇ…。
乱れじゃなくて淫らの間違いですか?」
「や…めて…エマ…。その触り方…。」
「騎士団長様だけが着てる鎖帷子ってすき間からこんなに突起が…。
花乙女騎士団の標準装備にならないのは、独りで楽しむ為ですかぁ?」
「ち、違…いま…す…。この着込みは本当に希少で…。」
「そっかぁ、一人で楽しんでるわけないよね。
これからは『王子と二人』だもんねぇ…。」
「エマ、何故お前がもう知ってる?」
「王子付きのメイド兼花乙女騎士団のエマ様の情報網を甘く見ないで!
でも…今は幼なじみのエマとリディアじゃない…。
全く…二人とも私に一言も相談しないんだから!
リディアちゃんもその場で断るよりも、返事を保留して私に一番に話すと思ってたわ!」
「断るに決まってるだろう!
私は…先代に及ばないながらも、次期将軍は私だと自負はあった!そしてハイネ殿下は私に将軍の勲章を授けると思い、私は受かれてたさ…。」
「まさか勲章じゃなくて婚約指環を贈られるなんて思いもよらなかったと。」
「私なんかがハイネ殿下の妻にて、スールシャール王国の王妃などと…。
馬鹿にしないでほしい!」
「でも…。女に取って、求婚されるって、何よりも名誉なことなんだよ!それがハイネ王子からだなんて、国中の女の子が羨ましいがるよ!」
「そんなことは解っている!
だが私の一番の名誉は、騎士として勲章を賜ることで、婚約指環を受け取ることじゃない!」
「でも一番怒ってる理由はロイの事じゃない…?内務大臣の彼が王子に進言したのかって?」続