「本当に宜しいのでしょうか?」
「貴女からお願いしてきたことでしょ?
大丈夫よ。文化祭当日には、佳澄ちゃんと氏家くんがツーショット出来る状況を作るわ!」
「弥生の事は任せて。
私と真理亜で上手く引き付けるから。
でもまさかあの、『体育祭のアイドル』山際さんが、いくら甲子園準優勝とはいえ、エース牧野君や四番キャプテンの千石君じゃなくて、氏家君だなんて見かけによらないね~」
「彼は血の滲む努力でレギュラーを確保しました。しかも一般入試枠です!」
「うわぁ『高校野球マガジン』を隅々まで読みタイプね…。」
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「…最近は私の命に背いてあの庶民と随分仲が良いことと思ってた矢先に、一生のお願いなどと…。
そんな突拍子もないアイデアをあの庶民達と?
『キリストの復活劇』は聖バーバラ演劇部の伝統ですわ!」
「しかし…赤尾さんに堂々と再会するにはこれしかありません。
お嬢様が裏方役を承諾さえすれば、全ては上手くいきます。」
「お祖父様…。」
「は…?」
「現会長のお祖父様が私に話してくれましたわ。
『周(あまね)、近付く人間の殆どは、後継ぎとしてしか見ないだろう。
個人の人間として周とお話してくれる人間は若い内に三人居るかどうかだろう。その三人を大切にすることが出来れば、全ての人間からお前は愛されるだろう。』
と言ってましたわ。」
「何故、今、その話を?」
「山際、貴女がその一人ですわ!」
「勿体無いお言葉…!」
「もう一人は悔しいですけど…。」
「まさか…?」
「ええ、間違いなく三好真理亜という庶民ですわ!
あの庶民は逆に私をもう少し敬ってもいいくらいに…。
いいでしょう、山際。
私が舞台に立つ赤尾さんと、庶民の三好真理亜とその取り巻きを見事にプロデュースしてあげようではありませんか!
私が美しいの当然ですわ!
庶民を美しく見せてこそ、剣崎家次期当主!
いいでしょう。
それで山際、これは私の為にかしら?」
「いえ、自分の為であります。」
「…時に山際。あの庶民から答えは聞いたの?」
「答え?」
「鈍いですわね!中世に禁止されてた子作りの方法ですわ!」
「貴婦人が乗馬をたしなむのは近代以降なのは知りませんでした。」
「貴族がプードルを飼う文化でなくて?」
「最大のタブーはやはり餌を啄む鳥…。あれは職業婦人のみの技術…。」
「しかし、未通が鉄則故にもう一つを容認するなど本末転倒…」