台風一過が秋晴れを連れて来た午後、爽やかな声が聖バーバラ女学院の正面玄関に響く。
「こんにちは、電気屋です!」
「すみません、車は奥の方に停めてください。
そこにはもうすぐ食品卸の車が来ますので。」
電気屋の赤尾俊光とは対照的に、女性らしからぬ低い声が守衛室から届く。
学院の警備主任、元自衛官の後藤梨恵(通称ゴリエ)だ。
赤尾が車を玄関口から裏の駐車場に停めて再び守衛室に戻った時、食品納入業者の播磨屋さんの車が丁度到着した。
「おう、俊!お前、今日も学院にお呼ばれか?
商売繁盛だな!」
「はい、何でも昨夜の台風で生徒寮のテレビアンテナがやられたみたいで。」
「そうか、昨日のあの風ならあり得るな。
高い所は気をつけろよ!」
「はい、ありがとうございます…あの…。」
赤尾青年は播磨屋のおじさんに言いにくそうな素振りながらも切り出そうとしていた。
「どうした、俊?言いたいことがあるなら早く言え。
こっちはナマ物抱えてんだ。」
「す、すみません…。
おじさんが学院側に仲介してくれたんですよね?
テレビが直せる電気屋なんていくらでも居るのに、ウチに仕事を回してくれて…。
ありがとうございます。」
「いいってことよ。
お前の親父さんとは古い付き合いだからな。
それに今日、二回目もお声がかかったってことは、前回のお前の腕が確かだったってことさ。
俺はきっかけを作っただけで、後は主のお導きだ。」
「はい、本当にそうですね。
でも、修理の腕ばかり上手くなっても…。」
「何でえ、随分弱気じゃねえか?
今年も落ちそうなのか?
4回も5回も変わんねぇだろ?気楽にいけよ!」
「まだ次で三回目です!
でも、本当に教区を変えようかとも思ってますよ。
あの司祭の下じゃ、あと何年かかるか…。」
「『主は乗り越えられない試練を与えない』だ。
今日のお前の修理も、きっと次の試験に活きた経験となるさ。」
「そうですよね。
ありがとうございます。
この教区の皆様には本当に感謝しています。
それが僕に決断を悩ませる原因でもあるんですが…。」
「電気屋さん!そろそろいいですか?
恵明寮B棟はこちらです。
案内致します。」
「あっ、すみません…。」
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「来た?」
「来たわ!」
「でも、何で放課後なんだろ?
私達が授業中に修理したらいいのに。」
「それじゃサボりが続出するからよ。
理事長も諦めモードね」続