四日目
俺は当たり前のように自室で一人、朝を迎えた。
昨日、社長室で悠子社長と衝撃的な時間を過ごしたが、それはほんの一時だった。
官能小説よろしく、社長室の机の上に押し倒し…なんて展開があるわけもなく、キスはただ、キスだけでしかなく、それは「お礼」の証の何物でもなかった。
「じゃあ何故…?」
身の程を知らないわけじゃない。
勉強にスポーツにルックスに恵まれて華々しい学生時代を過ごしたわけでもない。
職場には方言丸出しの田舎メガネと仲良くやってるくらいだ。
悠子社長の旦那さんを含め、四人で食事したことは、一昨日の焼き肉だけじゃないし、俺も彼女も社長宅に招かれたこともある。
だからこそ…。
「あの武井綾乃が社長のご主人さんと…?」
いやいや、あり得ないだろう?
あの旦那さんは、年齢こそ社長より10歳近く上だが、テレビ局の重役といい、大人の雰囲気といい、あんな田舎娘に手ぇ出す必要ないだろ!
じゃあ…悠子社長はウソをでっち上げでも、俺とキスしたかったのか?
それこそない!
でも…問題はそこじゃない。
問題は、俺が悠子社長に本気になり始めてることだ。
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「どしただぁ、里中さ?今日の私、そんな綺麗だかぁ?」
デスクで目が合うと、敏感に反応される。
明るい性格以外、取り立ててパッとしないこんな娘が社長の目を盗んでまさか…。
「なぁ、武井さん。お昼一緒にどうだ?」
「わ、私とですか?う、嬉しいけど、私お昼はお弁当が…。」
「晩に回せばいいだろ。
それか俺にくれ。
行くぞ。」
「は、はい…。」
社長は社長室で良かった。
例え聞かれてなかっても、社長が居れば俺は彼女を誘えなかっただろう。
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「なぁ、武井さん。
ホントに彼氏居ないのか?」
「んだぁ。いい人はみぃ~んな相手が居るだぁ。」
相手?やはり社長の旦那さんのことか?
「なぁ、武井さんは正直、社内で俺との仲を囃し立てられてどう思ってんだ?
俺なんかとカップル扱いされるのが嫌なら嫌って言えよ!」
「嫌じゃないだぁ。
里中さが自分の気持ちで私を誘ってくれるなら、直ぐにでもお泊まりしてもえぇだ。
んでも、周りから言われて何となくで、堕ちやすそうな私だからって誘うならお断りだ!」
「『私にもプライドある』ってやつか?」
「そんな立派なもんじゃねぇだ。
ただ…。」
「ただ?」
「里中さの清らかさに比べたら私は汚れてるだ」