「グゥ…。ガッ…。」
今まさに、近藤刑事の裸絞めにより、天使の史香さんは気絶寸前だった。
それは人間が天使に勝とうとする瞬間だった。
「ごめんよ、史香さん。
君が降伏の意思を示さない限り、この手を緩めるわけにはいかないんだ。
僕だって、いつまでも三人でユーレイ課をやっていきたかったさ…。」
「三人…?」
史香さんは絞め上げられながらも、息を詰まらせながらも近藤刑事の言葉に反応した。
大切なウリエル様を裏切り、人質に取った史香さんに対して、近藤刑事は今なお「三人」と言った。
人間とか天使とかじゃなく、あくまで史香さんを同僚と思いたい気持ちが私にも伝わった。
カフェで少しだけウリエル様から近藤刑事の話は聞いたが、話どおりの男性ってのは、悪魔の私にもわかった。
「…もう、声も出せないだろうから、聞いててよ。
僕だって宇都宮先輩が人間じゃない、って知った時はショックだったさ…。
でも、誰かを大切に想う気持ちに種族や階級は関係ないんだよ。」
「う、うるさ…。ゴホッ」
「ほら、喋ると余計に頸動脈が絞まるよ。
ホントにもう天使の術は使えないんだね。
実は今でも電撃とか地震とかの魔法使われたらどうしようって思ってるよ…。」
「ハハハ、刑事の兄ちゃんよ。痛みで魔力を封じられた下級天使にそこまで力はないさ。
だが、身体能力は人間以上だ。
さっさと落としちまいな。
なんなら俺が…。」
「佐田くんの友人さん、待ってください。
僕は史香さんの意思に任せたいんです。
『参った』をしてください。
そしたら僕は全力で天界のお偉方に情状酌量を求めますから!」
(馬鹿な…私が人間なぞに…。確かに魔力は封じられているが、私には人間の姿でも念力が使える。
そう、私は生まれながらのサイッキックだ。
インドラの剣がまだ実体化してるうちに念力でこの手に…。」
「そうそう、僕の様な人間の弁護なんかいらない!って言うなら、僕の胸ポケットに拳銃があるから。
貴女がそれを奪って僕を撃ってください!」
(馬鹿な…!この人間は自分から何を?
念力を使うより遥かに容易に殺れるぞ?)
「ちょっと近藤くん!そんな秘密言ったら…。」
「でも、僕の知ってる史香さんはそんなこと決してしません!」
(ウソ…?人間のクセに私を信じるの…。もっと早く君に会いたかった…。)
史香さんは畳を二回叩き、降伏した。
胸ポケットに拳銃は最初から入ってなかった。