「梨衣子、被疑者に挨拶する馬鹿があるか!今は一般人のお前の為に、私はいつもどれほどの事後処理をしてると思っているのだ?
ただでさえ公安の守秘義務は…。」
「あー!また馬鹿って言ったー!
せっかく着替えと差し入れ持ってきたのに~!」
公安部の能代警視は明らかに困惑していた。
今まで妻の梨衣子が職場に押し掛けて来たことは度々あるが、勤務中の取調室をこじ開けたのはこれが初めてだったからだ。
「私に届け物があるなら天宮に渡せばいいだろう?
被疑者が男とわかったなら安心しただろう?
さぁ、これ以上仕事の邪魔をしないでくれ。
「行っとくけど今回の件は、私も関係者です!
来週には私が正式に理事長に就任したら…。」
「部外者の前でペラペラと喋るなと言ってるだろう!」
「何よー!
今のあなたが偉そうに出来てるのは…。」
「わかった、わかった。
私の負けだ。
お義母様と志戸の家には感謝している。
勿論、梨衣子にも。」
「ホントに?わ~い感謝してるって言ってくれた~!
ありがと、じゃあ帰るね。」
「若い男にお前をあまり見せたくないんだ。
私の気持ちわかるだろう?」
「うん、わかるよ。
可愛い犯人さん、バイバ~イ!」
「僕は犯人じゃありません!奥さんからも説得してくださいよ!
旦那さんの取調べは強引だって!
ちょっと、八神さんまで笑いを我慢しないでくださいよ!
書記官は記録だけしててよ!
肩がそんなに震えたら速記出来ないでしょ?」
「そうだ八神くん。
そこは記録しなくていい!」
「へぇ~、初めて僕と能代さんと意見が合ったね。」
「いえ、自分は室内の会話全てを記録する義務が…。」
近藤の言葉に反応し、取調室の端で黙々と記録を書き続けた書記の女性警官が赤面しながら初めて口を開くと…。
「八神…ですって?」
「梨衣子、早く帰れ!」
年甲斐もなく、少女のような言動と行動をしてた梨衣子の表情が豹変し、重いトーンで…。
「ふぅ~ん、…見逃す所だったわ。
八神則子…あんた…まだ婦警やってたの…?」
書記官の八神巡査も立ち上がり…。
「あら、痛いオバサンはまだ『妻』をやってたのですか?」
「書記官のクセに良く喋るじゃない。
その様子じゃ相変わらず下の口も忙しそうね。」
「私は貴女の旦那様にはもう何の興味もございませんからご安心を。」
「昼は給料泥棒、夜は泥棒猫、納税者を馬鹿にしないでほしいわね!」
続