と、彼は1コールで電話に出た。まるで私を待っていたようだ。
「あの…。」
「……。」
「……。」
手紙に書かれてあった「俺が守る」の言葉に私は完全にやられた。
ケーキを頂いたお礼どころか、自分の名前も名乗れなかった。
でも受話器の向こうのグラシャ=ラボラスはただ無言で待ち続けてくれていた。
電話をかけたのが私だと知っているからこそ、切らずに待ってくれてるのがわかった。
僅かに息が漏れるだけで、彼は一言も喋らず、私のタイミングで話すのを待ってくれていた。
「…何で何も言わないの?」
「お前が何も言わないからだろう?」
わかってる。こんな事が言いたいじゃない。
でも不思議な安心感があった。
私は沈黙を共有してることが嬉しかった。
(私と契約するなら、人間界で外で会ってください。日定を決めたいです。)
これだけの事が言えなくて、
「…明日は…?」
と、絞りだすのが精一杯だった。
「いつも通り店だが?御子神に急な仕事が入ったから明日は大変そうなんだがな…。」
「そう、明後日金曜日はロビン店長が休むから無理だよね…。」
「土曜ならいいぜ。」
「わかった…。
○○駅向かいの△△ビル前に10:00でいい?」
「何でぇ、用があるなら…。」
「転移魔法はやめて!
場所と時間を決めて待ち合わせするからいいの!」
「すっかり人間みたいな事を言うんだな、アンドロマリウス。」
「人間界では人間だもん…。それに安藤真利子よ!」
「わかったよ。
無駄を好むのは人間の不完全とう最大の美徳なり。
どこまでもお供しますぜ、お嬢さん。」
「私と町を歩くんだから、それなりにお洒落して来るのよ!
ジャック・スパロウ

で町歩いちゃ駄目よ!」
「いけねえか?」
「カッコイイけど種類が違うの!
普通にジャケット羽織るだけでいいから!

「わかった。
だが、人間に化けて人間界に出ると能力が制限されてかなわん。
今、手元に俺の手紙とペンはあるか?」
「あるよー。これがどうしたの?」
「俺の名前の下にお前の名前書け。」
「アンドロマリウス?安藤真利子?どっち?」
「どっちでもいい。」
「じゃあ、アンドロマリウスって書くね。」
私はまんまと契約してしまった。