とにかくどんな噂があるにせよ、ここが保育所として機能しているのは間違いない。
待機児童の問題は確かに行政の問題だろうし、イジメや不登校、シルバー世代の再就職…って、なんかこの保育所一つで問題が一気に片付く気がするんだけど…。
「ねぇ、中山さん。ここの問題だけど…。」
「ええ、Yがプラスになるのはaとbの値が…?」
「『異なる二つの実数解』!」
「そうよ、よく憶えてたわね?修くん、亜由美お姉ちゃんはこの問題が終わったらたくさん遊んであげますからね。
そうだ、刑事さん。少し子供達の相手をしてやってくださいな?私や亜由美さんから聞き出した言葉よりも、体当たりで子供達に触れ合うことが一番ですよ?」
「ぼ、僕が…?弱ったな…。」
「刑事のお兄ちゃん、ライダーごっこしよう?」
「剛もバカだな。本物の刑事なんだから、警察ごっこしようぜ!
お兄ちゃんが銀行強盗役な!」
「…この刑事さんが犯人なら私、人質役やりたいです…」
「私も~!」
「あらあら、いつも大人しい美紀ちゃんまで一緒になって…。
刑事より保父さんの方が似合ってるのかしら?」
「中山さん、私も一緒に銀行強盗ごっこしたいよ~。」
「亜由美さん、課題が終わったらですよ!」
「は~い、って電話だわ。私出る。」
子供と遊びながらも、電話口で対応する亜由美の仕草を見逃さない近藤だった。
亜由美は困った表情で年配女性の中山に引き継ぎ…。
「まぁ、志戸(しと)さんのご家族が急病で来られない?どうしましょう?私ももうすぐ孫の塾の迎えに行かないと…。誰か交代してくれる方は…?」
「いいよ中山さんは行って!この子達の保護者が迎えに来るまで私が居るからさ!」
「亜由美さん、まだ未成年の貴女に任せられませんし、刑事さんの手前、いきなり規約を破るわけに行きません。休日の田中さんが出れるか連絡を…。」
「待って!大人なら居るじゃない!刑事さん!交代の保育士が来るまで、ここに居てよ!」
「それは名案だわ、亜由美さん!警察の方なら何よりも安心ですわ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!僕にも予定が…。」
「警察は地域住民との触れ合いが何よりも大切でなくて?近藤さんは市民を守るつもりはないのかしら?」
「わ、わかりましたよ!臨時の交代要員が到着するまでですからね!」
「やった~!ねぇ刑事さん。今度は私と二人きりで遊ぼう?」
「亜由美お姉ちゃんずるい!」続