「桜子ちゃんが静さんを嫌うようになった理由はね…。」
慎重な面持ちで切り出した翠伯母さん。
おばあちゃんも黙って頷いた。
私もこれから聞かされる話にこそ、私と相野家、そして私と嵐との関係を決定着けるものなんだと直感した。
「8年前、春人さんのお葬式でそれは起きたの。
そして、その事はるんちゃん自身も関係してるの。」
「わ、私が?
確かに、みんな私と嵐が昔に何か関係してた様な話をし出しら口をつぐむけど…。」
先の静さんのお葬式の時も、幼い嵐の姿がフラッシュバックして私は頭痛に襲われる…何故…?
「桜子ちゃんは、獣医であり春人さんより年上の静さんを大人の女性として尊敬してたわ。
根っからのお兄ちゃん子ってのは別に二人を祝福してたの。
それは最愛の兄である春人さんが急死しても変わらなかったわ。
桜子ちゃんも、静さんも、葬儀の席では悲しい顔を見せずに心で泣いていたわ。
その頃はCEOとしてとても忙しい時期だったし、るんちゃん達三人もまだ小さかったから、鮎兎だけでは大変と思って私も和歌山に行ったの。」
「翠伯母さんも来てたの?
全然知らなかったー!
てか、私、その8年前に和歌山に行った記憶がそっくり抜けてるんだけど…。」
「そう、だからしっかり聞いて、るんちゃん。
大人達にとっては、若くに亡くなった春人さんの死は悲しいけど、子供達にとってはお葬式なんて退屈なものよね?」
「うん…私、この年でもあの雰囲気苦手…。」
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(8年前)
「嵐くん。ねぇねぇ一緒に遊ぼう。これ私の宝物のおもちゃのピアノ家から持ってきたの。一緒に弾こう?」
「悪ぃ…。
今はそういう気持ちになれんのじゃ…。」
「るん!嵐くんはお父さんを亡くしてまだ悲しい気持ちが治ってないの。
嵐くんを想うならそっとしておやりなさい。」
「だってぇ、麗香お姉さんはお勉強ばっかりだし、凛子お姉ちゃんは乱暴なんだもん!
嵐くんの方が優しくて好きー!」
(ウソ?私、小学2年でそんな事言ってたの?)
(その時分の男の子は、女の子と遊ぶのが恥ずかしかったんでしょうねえ?
これがあの霧雨くん達だと…。)
「ツッキー、ユッキー、この奥抜けたら絶好の釣りポイントがあるんや!お前らだけに教えてやるぜ!来いや!」
「サンキュー!月之介、行こうぜ!」
「嵐くん、ずる~い!パパが死んで悲しいんじゃないの?
雪之介達とは一緒に遊ぶなんて!私も連れてって!」