おばあちゃんと伯母さんの話は、私のお母さんから聞かされた話と真逆だった。
お母さんは常々パパとの馴れ初めの理由を
「社内報に載せるからには、私と釣り合うイケメンだったらそれで良かったの!」
とか、
「私に後継ぎを生ませてくれる、アレが強い殿方を求めただけよ」
って言い張ってたけど、それってお母さんなりの照れ隠しだったのかな?
確かに相野グループのCEOとして、お母さんは誰よりも強くあり続けなればならなかった。
そして、そんなお母さんを優しく受け止めるパパが私は大好きなのは、ずっと前からわかってたのに…。
嵐が自分の両親を「研究の為の仮面夫婦」って言い張るのも「あくまで嵐の意見」だし、お母さんはあくまで実の兄である春人伯父さんとの禁断の愛を主張するかもしれない。
どちらにせよ、それは全て「私が聞いた話」なんだよね。
きっと今日の話を姉や嵐に話しても、相手側の受け止め方は私と違うのだろう。
きっとこういう違いがわからない限り、凛子お姉ちゃんが言ってた「ヒヨコ以下の玉子ちゃん」なんだろうな…。
「ホントに、あの時の桜子ちゃんは『男前』だったんだよ~。」
「バカ嫁の数少ない取り柄は向こう見ずなくらいだかんねぇ。」
「もう、そんな風に言っても、お母さんの心意はるんちゃんに伝わってるわよ♪
こんなに可愛く元気に三人の娘が育ったのは、相野グループとか関係なく、鮎兎と桜子ちゃんの愛情のおかげでしょ?
さすが、雨の中玄関で私のお父さんに『鮎兎さんを私に下さい!相野グループ再建には鮎兎さんの力が必要なんです!私の細腕に相野グループの社員とその家族の命運が懸かってますが、鮎兎さんと二人なら大丈夫なんです』って、お父さんが首を縦に降るまでずっと譲らなくてね。
鮎兎も桜子ちゃんの傍から一歩も離れずに婿入りの覚悟を訴えてたわ。」
「…私達、年配の夫婦にはやっと出来た自分の息子だったからねぇ…。翠を嫁に出す前に、まさかこんな形で息子を手放すとは思ってもなかったわ。」
「おばあちゃん…。やっぱり、突然飛び出した春人伯父さんを恨んでますか?その奥さんの静伯母さんのことは?
ウチのお母さんは口癖みたいに『よくもお兄様を』って言ってるけど…。」
「鮎兎から聞いた話で良くわからないけど、桜子ちゃんは自分より10歳近い年上の静さんに憧れと妬みが混じった感情があったのは事実だけど、桜子ちゃんが静さんを恨むようになったのは別の理由よ。」