「…はい、はい。無事に到着しました。
いいえ…いいえ、大丈夫です。」
路上ライヴ?は可もなく不可もなく終わりにした。
足を止めて聴いてくれた人は殆ど居なかったが、度胸を付けるには最適な練習だと実感した。
そして私はおばあちゃんの家に連絡をした。
「流鉄線に今から乗るところ」
と、本当じゃないことを言った。
迎えに来る伯母に気を使わせない為だが、電車に乗る苦労がわかってない時の私だったら、そんな配慮も思いつかなかっただろう。
ほどなく伯母の車は到着し…。
「お久しぶり、るんちゃん!
随分可愛くなったじゃない!
朝早くからありがとうね♪」
「いえ、少しでも長くそちらで過ごしたくて…。」
正直、翠(みどり)伯母さんの明るく社交的な態度に驚いた。
おばあちゃんは大好きだったが、パパの実家と親密にならなかったのは、パパの義姉である翠伯母さんの陰気な雰囲気が私は苦手だったからだ。
そう、義姉である。
伯母は子供の居なかったおばあちゃん夫婦の養女だ。
物心つく前から養子縁組みされたから問題ないが、7歳の時にパパが実子として生まれた。
翠伯母さんは控え目で無口で結婚もしていない。
淡々とおばあちゃんのお世話をする姿に私は近寄りにくかったのだが、久しぶりに逢った伯母はとても躍動感に満ちていて、それはエネルギッシュに仕事をする私のお母さんに近い物を感じた。
「おばあちゃんは元気ですか?」
「うん、元気なんだけどね~。
ちょっと忘れっぽさが最近目立つけど、年を考えたら自然なことかもね~。」
「え?おばあちゃんって、昔っから忘れっぽかったですから?」
「あら、そうだったかしら?」
と、クスクス笑う翠伯母さんは本当に別人のようだった。
「伯母さん、何だか凄く楽しそうっていうか、幸せな雰囲気を感じるんですが、何かあったんですか?」
まさかこんな大胆に突っ込んだ質問が出来るとは自分でも驚きだった。
そして伯母の答えも…。
「お料理教室…。」
「え?」
「姪のるんちゃんに話すのはちょっと恥ずかしいけど…。
お料理教室で出会った進藤さんて方とね…今、いい感じなんだ…。」
クラスの女子達は30代独身女教師を散々陰で笑い者にしているが、今年で50になる伯母の目は、そんな私の同級生よりも可愛く見えた。
「私のそんな雰囲気を感じるなんて、るんちゃんも恋してるから?
相手は嵐くんかな~?」
「違います」
「はいはい」