
姉の車のおかげで私は余裕を持って到着出来た。
「ありがとう、お姉さん…。」
「お礼は無事に帰ってからにしなさい。
それに、私は嵐くんに借りを作りたくなかっただけよ。
あと、認めてくれた雪之介にはお礼言った方がいいわね…。」
「ありがとう、雪之介…。お母さんに黙っててくれて。
おかげで出発出来るわ。」
「いいえ、私は麗香お嬢様に付き従っただけです。
それにるんお嬢様の親友には…。」
「終わったことだわ。
それにおかげで舞花と嵐は親密になれたわけだし…。
だから私もこの旅に賭ける想いが生まれたの。
何もなかったら、何も変わらなかった。
今はそう思うわ。」
「るん、今週は三連休だけど、好きな時に帰って来なさい。
るんが決めた宿泊旅行なんだから、るんのペースで自由にしたらいいのよ。
駄目だったら誰に気にすることなく帰って来なさい。
貴女の家なんだから。
そしてまたいつでも出直しなさい。」
「お姉ちゃん!」
ドラマでもリアルでも、数々の別れの舞台となった東京駅

麗香お姉さんの見送りなんて、全然重大な問題じゃないのに、お姉さんの言葉が嬉しくて、その胸に飛び込んでしまった。
きっと私はお母さんとパパからこんな言葉が聞きたかっただけなのかもしれない。
目的地までの切符を購入するという、私的に重大イベントを前に泣き虫の私は既に泣いていた。
凛子お姉ちゃんのことは親しみを込めて「お姉ちゃん」と呼んでいたが、麗香お姉さんを「お姉さん」と呼んでいたのは、畏怖と嫌悪からだった。
初めて、本当に初めて麗香お姉さんを「お姉ちゃん」と呼んだ。
本当に小さな変化が起こり出していた。
私の玉子の殻は確実に割れだしていた。
「ごめんね、麗香お姉ちゃん、私って面倒くさい妹で本当にごめんなさい。」
「るん、出発前には言う言葉があるでしょう?」
「うん、『行ってきます』ここからは本当に私一人で出来るから、口出ししちゃ駄目よ!」
「わかってるわよ、嵐くんと散々打ち合わせしたんでしょ?」
「うん、観光マップに手書きのメモくれたんだ…!
ほら、『みどりの窓口で買わないこと』
とか!細かくアドバイス書いてくれたんだ。」
「あら、帰宅してからが修羅場かしら?これだから男って生き物は…。」続