「大昔、鶏は食料目的じゃなくて、ペットだったの!?
ウソー!」
「あぁ、厳密には警戒心と縄張り意識の強い鶏は、防犯対策に犬より安上がりだったんだろうって話らしいし、有害な虫を食べるからって説もある。
勿論、全ての日本人に当てはまるわけちゃうけどな。
野山で狩猟生活しとる人間には狐や狸も食料やったやろう。
でも…。」
「うん、農家や商人みたいに国が管理出来る人間ばかりじゃないよね。
サムライだって、『国人衆』っていう将軍家に従属しない地侍が居たんだし…。」
「ほう、るん、よう知っとるなぁ。」
「相野家のルーツは足利家と対等な関係を貫こうとした関東武者よ。『豪族』って言ったらお母さん怒るから(笑)。」
「わかった、事前情報サンキュな。」
「ううん、嵐の方が物知りだよ。その鶏の歴史も鶏子ちゃんを研究しながら学んだの?」
「あぁ、知識はあっても、鶏子は未だにダイヤモンドを生んでくれん。
父さんと母さんの論文間違ってないはずやのに、何かが足りんのや…。」
「そんな思い詰めないの!
鶏子ちゃんばかりの問題とは限らないじゃない!
ほら、餌とか…。」
「わかってる!餌も水も温度も十分に管理しとる!」
「私に怒んないでよ!
出発前くらいいい顔見せてよ。」
「あぁ、悪い。ホンマやな。二泊でも、おらんと思うたら寂しいわ…。」
「ありがとう、うんいい顔。
お母さんもそんな嵐が好きなんだよ。
じゃあ、おやすみ。始発まで少ししかないけど、仮眠するわ。」
「あぁ、おやすみ。
でも、東京駅まではどうすんねや?」
「屋敷を出た手前の大通りにタクシーに来てもらうわ。
大丈夫、携帯にGPSもあるし、ホントに危なくなったら真っ先に凛子お姉ちゃんに連絡するって約束してるし。」
「あぁ、それなら安心や。
おやすみ。」
こんな気持ちで、嵐の部屋で過ごすのはホントに危なかった。舞花の名前を口にしないことにも成功して安心した。
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目覚まし時計が鳴り、時間は来た。
荷物を持ち、私は一人でこっそりと玄関を出て、屋敷の門を開けようとすると…。
「考え直してください、るんお嬢様。」
長身の美少年は低い声で私を制止し、いつもながらの鋭い目を私に向けた。
「お願い!雪之介、ここを通して!」
と、その時後方から車のエンジン音がした。
お母さんのスポーツカーじゃなく軽だ。
「乗りなさい、るん。駅までよ。」
麗香お姉さん!何で?