「な…何これ?
何で同じ目的地なのに、ルートがこんな沢山あるし、値段も違うの?」
「だから言うたやろ!予備知識もなく東京駅なんかに迷い込んだら、一日中山手線の中でぐるぐる回っとるだけやで!」
「私…東京生まれなのに何も知らないんだね…ホントに馬鹿だ…パパとお母さんが心配して怒るのも当然だわ…。」
「何や?地図広げて電卓叩いただけで、もう心折れとるんか?
旅行は計画中が一番面白いんちゃうんか?」
「うん…。すっごく楽しみ何だけど…怖いよ、正直…。」
「俺が後ろから気付かれん様に付いて行ったろか?」
「やめてよ!『はじめてのお使い』のカメラマンじゃあるまいし!
それに私に先に言ったら意味ないじゃない!」
「ホンマやな。
黙って後ろから追わなかあかんのに、失敗したわ。」
(ありがとう。)が言えなかった。荒々しい嵐の優しさに触れた時は、私は相野家に生まれたこと、「三番目」の言葉を忘れられた。
夜中に顔がくっつくほど彼の部屋で地図をにらめっこしてたら、なんか勢いがついて変な気分になりそうだけど、歯止めが効いたのは舞花の存在だった。
嵐は従兄弟でもあるけど、親友の恋人だ。
今回の旅行は私自身の気持ちを確かめる為でもあるんだから…。
おばあちゃん家でゆっくりして、私が嵐を好きじゃないと確信したら、舞花との幸せを願って友達でいられる。
もしも本当に嵐の事を好きだと自覚したら…その時は…もう一泊延長してから考えよう。
「おい、るん!」
「あ、ごめんなさい。」
「やっぱこのルートが一番安くてわかりやすい。ええな、新松戸と幸谷は名前は違っても場所は同じや。
それと流鉄線の料金は東京からは払えんからな!」
「そうなの?二回も窓口で買うの?大丈夫かなぁ?」
「お前、よう駅行ったわかるなんて思うたな…。」
「なぁ、るん…。」
「なぁに?」
「日本人は仏教の教えで、江戸時代半ばまで肉は食べんかったこと知ってるか?」
「殺生の禁止だっけ?牛、豚だけじゃなく鶏も食べなかったの?」
「あぁ、しかも鶏卵すら食べんかったんや。
でも無精卵は生命じゃないから殺生に該当せえへんから食べて問題ないって浸透したのが江戸時代半ばや。なのに日本人はもっと昔から鶏を飼うていた。
何でや思う?」
「え?肉も玉子も食べずにどうして鶏を飼っていたの?意味わかんない。」
「簡単な話しや。愛玩ーつまりペットや。それはそれで意味あるんや」