私を勢いつかせた言葉は、両親が口にした「三番目」だった。
麗香お姉さんだって、小さい頃はスパルタ教育にグズったこともあったのを知っている。
凛子お姉ちゃんだって、異国での修行が辛かったと話してくれた。
でも…私は…経営学と格闘技を叩き込まれた姉二人が可哀想だから、せめて「三番目」は普通の親子らしく可愛がろうとしたっていうの?
だったら私だっていい迷惑よ!
確かに姉達より愛情を注がれてきた自覚はあるわ。
でも…常に親に監視されて、可愛がりたい時だけ可愛がられて、自分からは何もさせて貰えないなんて…。
嵐のお母様のお葬式に、お母さんが私だけを連れて行ったのも、ただ自分の車に私を乗せたかっただけ?
…そう考えたら、楽しかったドライブが急に憎らしくなる。
もう、お母さんに反対されても、パパに嫌われても構わない。
私は自分が決めたようにする。
始発で出発するわ…。
その前に…。
取りあえず涙が止まったのを見計らい、自室のクッキー缶とジュースを手にした。
「コンコン!」
「嵐!今いい?」
「おぉ、るんか?入れや。」
離れの研究室じゃなくて嵐の自室。
整頓された部屋は勉強道具と漫画が並んだ男子高校生らしい部屋だった。
「へぇ~片付いてるじゃない♪
研究室とは大違いね!」
「文句言いにきたんか?
クッキー持ってるんがわかってるから、はよう食わしてくれや?
雪之介さんがまだ何も運んで来てくれんのや。」
「ご飯の代わりにしないで味わって食べてよね!
デリカシーない田舎もん!
…って、ごめん。
そうじゃなくてありがとう。」
「何がや?」
「嵐って…人の気持ち察するのが凄くいい所よね。
それは相野家とか田舎育ち関係なく、凄く大人だと思う。
麗香お姉さんも私もだからそんな嵐に救われてる…ありがとう。
出発前にお礼言いたくて。」
本当は『だから舞花も好きになったんだね』と言いたかったけど言えなかった。
認めたくなかったし、その後の嵐の言葉を聞きたくなかった。
「そっか。
気ぃつけてな。
時間やルートは調べたんか?」
「ううん、取りあえず駅まで行ったら何とかなるかなって…。」
「アホかー!
東京の線路の複雑さは世界一じゃ!
何の準備も無しに行ったら一生、構内から出られず野垂れ死にや!」
「そ、そんなに危険なの?」
「安心せい!
東京の観光ガイドは持っとる。
路線図もあるから今から俺と打ち合わせや!」