アルキビアデスはソクラテスを尊敬していたアテネの青年です。
後に将軍及び政治家になる。
プラトン著の「饗宴」には、彼は
「ソクラテスの話を聞いていると、私の心臓は※コリュンバンデスの場合よりもはるかに激しく鼓動し、彼の言葉によって私の頬には涙が流れる」
と。
※コリュンバンデスとはフリュギアの女神キュベーレに仕えていた神官であったが、音楽と舞によるエクスタシーによって、その神に仕えた。
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そしてキルケゴールが殆ど二次創作と言っていいほど、アルキビアデスに対するソクラテスの返答を「哲学的断片」の中で書いてます。
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「おお愛する者よ、君は何とも油断のならない恋人だ、何故なら、君は私の知恵故に私を神のように崇めておき、私の最上の理解者たろうとする、そして私をうやうやしげな抱擁の中に堅く捕らえ、私がそれから逃げ出すことを許さない者たろうとする。
これでは君は誘惑者ではないか?」
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はい、賢明な読者様ならば、私とキルケゴールが主張したいことが解ると思います。
いわゆる「神格化」が招く危険ですね。
国家間戦争が無くなりつつある今、「神格化」は政治や軍隊よりも、芸能やスポーツの方が、もしくは内部の者しかわからない企業の事情の方が顕著かもしれませんね。
ポイントは「逃げ出すことを許さない」です。
祭り上げられ、地位と名誉を獲得してしまった者は(広義の)一般人、普通に戻れないということです。
多神教の古代ギリシャで生きたソクラテスでさえ、
「正義を貫きたければ私人であれ」
と言っています。
デンマーク大学神学科を卒業し、牧師の資格もあったキルケゴールだからこそ「偶像崇拝」には厳しいのですが、もう一度、偶像=アイドルの日本語訳ということを思い出して頂きたい。
そして以下のキルケゴールの言葉をお読みください。
「現代は誰もが自己自身を高く評価することにおいて、弟子に特権を与えることにおいて、周囲の人々に動かされやすいことにおいて、そしてまた尊敬の暖かい息吹の中で愉悦を憶えることにおいて、ソクラテスを越えている。何という節操!誰も誘惑せず、誘惑されようとしている者さえ誘惑しようとしないのだから!
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はい、つまり自分を高く評価し、快適な生活と居心地の良い言葉が他者を崇めなくなった、というキルケゴールなりの皮肉です。
古代に比してテクノロジーの発達は神を遠ざけたのでしょうか?
続