「傷つきたくなければ戦場に立つな!」
凡百の少年向けバトル漫画に必ず出てくるセリフである。
大人しい拓哉少年も、この手の漫画が大好きだったが、自分が漫画のヒーローになれるとは思ってもいなかった。
騎馬戦の騎馬役三人はどんなに頑張ってもヒーローになれない。
騎兵役(※敢えて上に立つ人をそう呼びます)で相手の紅白帽を取りまくらない限りヒーローにはなれない。
しかし、早々と帽子を取られる「敗残兵」の烙印を押される危険もあるし、肉体的に負傷する危険もあるのだ。
だが、騎馬上の拓哉はそれ以前の問題に苦しんでいた。
「戦場に立つな!」の前に馬上に立てない、いや、騎馬が立たないのである。
前衛の岸元はまたも立ち上がれなかった。
三人で分散させるとはいえ、拓哉の体重を支えられなかったのである。
両陣営及び教師からの容赦ない嘲笑。そしてその矛先は馬上の拓哉に向けられる。
馬役が立ち上がれないのが原因なのに、騎兵の拓哉に嘲笑の視線が集まることに耐えられなかった。
競技内容の練習にさえ入らず、騎馬を組む練習を隅っこでさせられる1組の高身長四人組。
思考錯誤の末、左翼の永田が前衛に回ることで、筋力の弱い岸元の負担を軽くした。
やっと騎馬は立ち上がり、馬上の拓哉はその視線の高さに驚いた。
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だが、問題は山積みだった。
やっと競技内容に入れたものの、騎馬戦は三回戦を戦うのだ。
総当たり戦
勝ち抜き戦
大将戦
総当たり戦は時間内で帽子を取り合い、残った数を競う。
勝ち抜き戦は一対一で柔道や剣道の様に相手を全滅させる抜き試合。
大将戦はタスキを掛けた大将の帽子を取った方が勝ち。
1組2組連合はミーティングに入ったが、それは無理難題としか思えなかった。
2組の「お祭り男」林くんが1組陣営に提案した。
「僕達はフリーに動いて敵の大将を攻撃したいから、1組で大将やってよ!」
林くんは一度練習で目立ちたがって大将のタスキを掛けたが、攻撃したい衝動に駆られ、1組に大将を押し付けてきた。
そして最初に2組の一番大きな騎馬がタスキを掛けたから、1組も一番大きな騎馬がタスキを掛ける流れになってしまった!
そう、拓哉が大将である。紅いタスキが華奢な身体を通すのである。
(こっちは馬上に立っているだけで精一杯なんだよ!)
とは言えなかった。林くんの騎馬三人組は、身長171センチの小学生林くんを悠々と乗せて動いているのだ。