人数のハンデを埋める布石は、予め打ってあった和夫だった。
舎弟の三郎に、この店が入ってるビルの管理センターに向かわせ、ガラスが割れるのを合図に店の照明を落とさせた。
暗闇に乗じて、相手を淡々と事務的に「処刑」する和夫。
これで店の女の子も店外に避難して万事めでたしのはずが…。
唯一の誤算は暗闇を怖がる瑠璃子だった。
「イヤー、怖いよ!助けて!助けて~!」
半狂乱になる瑠璃子を、同僚の女の子が宥めるが、泣き叫ぶ瑠璃子に手がつけられない。
「瑠璃ちゃん怖くないよ、ほら、私達は何も出来ないけど、男が頑張ってんだから、せめて私達は足手まといにならないように逃げよう?
大丈夫だから!」
明美が抜けた後、瑠璃子と同じく店を任された梨理亜が避難を促すが、瑠璃子は泣き叫ぶばかりだった。
それは和夫に殴り倒された者が息を吹き返す時間を与えるのと同時に、自分達の居場所を教える様なものだった。
「麗都の野郎騙しやがって!何が極上の女達とやり放題だ!
はぁ、はぁ、どうせ明日全員、富士山の肥料になるんだ…、女!最後の女~!」
「イヤー!触らないで!助けて和夫~!」
背後から肩を捕まれた瞬間、なりふり構わず瑠璃子は叫び、助けを求めた。
勿論、それは客として来店したホストの和夫ではなく、幼い時から自分を見守ってくれていた和夫を求めた叫び声だった。
暗闇は視界に映る幻を消し、真実の声を届けた。
躊躇なくその方向を指し示す様は、どこに居ても北を向くコンパスのように、激しく引き付け合う二人は磁石のように。
「俺の友子に触るなー!」
「和夫ー!」
男の手を振り払い、瑠璃子も和夫の方向に向かった。
暗闇は瑠璃子の中の友子を確実に照らし続けていた。
激しい抱擁に言葉は不要だった。たったそれだけで二人は全てを理解した。
「ふ、ふざけんな!女~!」
と後を追いかけようとする男に、ビール瓶の一撃を頭に見舞った者がいた。
「ハッピーエンドの邪魔はダメですよ。眠っててください。」
「うわぁ、マネージャー、たまにはカッコイイじゃない。」
「ここは僕の店です。梨理亜、僕に惚れ直しましたか?」
「イヤよ、バツ1子持ちお断り!」
**
「和夫、ごめんなさい、ごめんなさい。」
「友子、お前が謝るな!俺の方こそ悪いぃ…。暗闇はやっぱり…。」
「ううん、怖くない、和夫が居れば怖くない。」
和夫もこの後のキスを怖がらなかった